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    yoku_neru_

    @yoku_neru_
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    yoku_neru_

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    以前ワンドロでお借りした「星」をお題に書いたものを、少しだけ修正しました。
    剛士視点のアンサーもいつか書きたい。

    ##あいかね
    ##文

    それはきっとオマエのほうだ ひどい夢を見た。
     額を押さえてため息を吐き出す。夢の中で嫌な思いをしたという記憶はあるのに、実際にどんな夢を見たか、はっきりとは覚えていなかった。夢なんてこんなものだ。薄らとかいた汗に自慢の前髪が張り付いているのを鬱陶しげに払って一息入れる。今日もこれから仕事なのだから、悪夢くらいでうだうだとは言っていられない。
     脳裏に映るのは夢の中で見た、沢山の星が降ってくる光景。流星群なんて生ぬるい。空に光る全ての星がきらきらと瞬きながら降り注いでいた。空が星を失っていくのを見ながら、自分も何かを失った気がする。空にぽっかり浮いている月がやたら寂しそうだったのが、どうにも不快だった。
     
    「おはよ、剛士」
     部屋を出ると、ちょうど同じタイミングで自室から剛士が出てきて挨拶を口にした。眠そうな赤い目がちらりとこちらを見て小さく「はよ」と返ってくる。
    「…?どうかした?なんか酷い顔してるけど」
    「別に」
     寝起きだというのに少し疲れた顔をしている剛士は、気にするなとばかりに首を振って洗面所の方へ姿を消す。寝起きに殊更機嫌が悪いこと自体はさして珍しいことでもないけれど、それにしたって顔色が良くなかった。いつもならスペースの問題もあって一緒に顔を洗いに行くことは控えるのだが、何となく気になって背を追う。
    「……でけェ。邪魔」
    「そんな言い方ないだろ。心配してんだから」
    「いらねえ」
    「恋人の心配して悪い?」
     少し拗ねた口ぶりでそう返してしまえば、剛士は振り向かないまま黙ってしまう。振り向いてはくれなくても、鏡には剛士の不服そうな顔がしっかり写っている。
     二人がそういう関係になってから数ヶ月が経った。一見素直でなく無愛想な剛士に凹むことも少なくはなかったけれど、時折見せる対健十限定の甘さに気付かされるようになってからはそういうことも減ったと思う。
     不服そうな剛士の襟足をすくって耳の後に軽く口付けると、小さく鼻を鳴らして体を避けられた。
    「じゃあ言うけどよ」
    「……うん?」
     避けて空いたスペースに立って歯ブラシに手を伸ばすと、じっとこちらを見上げた剛士の視線に真っ直ぐ射抜かれてどきりと心臓が跳ねる。
    「ひでぇ顔してんのはオマエの方だと思うけどな」
    「えっ、嘘、前髪変?」
     はあ、と大きなため息を吐かれて、そのまま視線は鏡に向いてしまった。
     咄嗟に誤魔化してしまったけど、悪夢のせいで顔色が悪いなんて知られてしまった日には、精一杯のかっこつけが無駄になってしまうと思った。鏡に向けられた剛士の顔を横からそっと覗き込む。眉間のシワ、…は、珍しくはないけれど、やはり何処か疲れているみたいに顔色が悪かった。

     ◇◇◇

    「……だから今日はちゃんと寝ろよって言おうと思ってたのに」
     夜。がくりと肩を落とす健十のベッドでは、さも当然のように剛士が待ち構えていた。
     滞りなく仕事を終わらせて、肌のケアもしっかり済ませ、あとは寝るだけという状況。なんとなく予感はしていたけど、今にも寝そうな様子の剛士が健十の顔を見てスマホの明かりを落とした。
    「気持ちワリ。変な気使ってんじゃねえよ」
    「そういうかわいくないこというのやめろ。しんどくないの?身体は」
    「何ともねェ」
    「そうですか」
    「おう」
     間も開けず頷いてみせる剛士は言外にこれ以上の詮索を絶っているようで、大人しく隣に身体を滑り込ませる。
     先に剛士が待っていたベッドの暖かさが、密かに好きだ。身を寄せて温もりを感じてしまえばあっさりと機嫌が良くなってしまって、そっと細い腰を抱き寄せると肩に額を預けられた。
     猫が懐くみたいに額を強く擦り付けてくる。こういうふいの甘えが堪らない。暫く好きに甘えさせていると、伏せられていた顔があがって、じっと見上げてきた。
     知ってる。甘えたい時の剛士の無意識の癖。
    「キスしたい?」
    「ん」
     その素直なの、もうちょっと普段から出してくれてもいいよ?なんて言ったら怒るだろうか。意地悪で聞いたつもりが不覚にもときめいてしまって、仕返しに噛み付くようなキスをした。
     薄い下唇を緩く噛めば微かに吐息が漏れて、それが合図のように舌を絡める。上向かされたせいで晒された白い首筋を優しく撫で下ろせば擽ったいのか肩が跳ねた。
    「明日寝不足になっても知らないからな」
    「ん、……オマエと違って若いから平気だ」
    「一つしか違わないだろ。かわいくない」
     尖らせた唇を見て腕の中で楽しそうに笑った剛士を、力一杯抱きしめた。

     ◇◇◇

     ここは何処だろう。
     普段自分たちが生活しているTHRIVEの部屋だ。
     咄嗟にわからなかったのは、何処も彼処も電気が消えて真っ暗で、誰の声もしなかったからだろうか。
    「愛染」
    「え」
     しないと思っていた声がして驚いて視線を巡らせる。どうして気づかなかったのだろう。窓の前に剛士が立っていた。部屋が暗いからか顔が良く見えない。愛染、とだけ呼んだ剛士は窓の前で手招きしている。
     何、と口が音を発したきり、指の一本も動かせない。何故だか窓の近くに行きたくなかった。
    「愛染」
    「ちょ、っと待って」
    「空」
    「…?空?」
     言われて漸く足が動き始める。やけに窓の外が明るくて、剛士の顔が見えないのはそのせいか、と遅れて気づいた。
     空、と剛士が示した光景は、普段景色の変化なんか気にもしない剛士が健十を呼ぶには充分の不思議なものだった。
    「うっわ、……」
     星だ。無数の星が降っている。
     空で輝いていた、明るさも色も様々の星が、雨のように流れていた。このまま星が降り続けたら、きっと夜空は真っ暗になってしまう。そんなことを思わせるには十分の異常な景色は、それでも何故か見覚えがあった。
     いったいいつ何処で見たんだろう。眩しいくらいの窓から視線を外して少し低い位置にある剛士の顔を見ると、そこで初めて、剛士が降り注ぐ星ではなく、じっと健十の顔を見ていることに気付かされた。
     どきりとする。あれ、なんだっけ。この顔も見たことがあるな、と思った。何か言いたい時?甘えたい時?分からない。見たことがあるはずの表情なのに、ただじっと見つめる視線の意図が探れない。ぼんやりと漸く健十の中に関連付けられたのは、見知った剛士の表情ではなく宙を見つめる猫の視線だ。何も無いところを見つめる猫の目。まるでそこに人間には見えない何かが居るみたいな。
    「……なに?」
     飛び出た声は震えていた。無意識に掌が口を覆う。そんなことをまるで気にするでもない様子の剛士は、興味を失くしたように窓の外に視線を返した。薄い唇が面倒くさそうに開く。
    「しねェの」
    「何を」
    「願い事っつーか、願掛け」
    「…………なんか」
     らしくないこと言うね、と言いかけて、星に照らされた横顔に見とれたように消えていく。窓の向こうの超常現象より余程物珍しく見えた。思わず剛士、と名前を呼ぶ。ぶらりと下がった掌を掴んでも、引いても、目が合わない。肖像画みたいに動かない。心臓が早鐘を打つ。
    「ごう、」
    「お前は何にもねーんだな」
     願ったりなんかしちゃくれねえって、分かってたけど。
     寂しさとか失望とか、そんな感情も全く感じさせない平坦な声。今日このあと仕事だな、なんて言うみたいな当たり前のことを言う風な声が鼓膜を揺らして、
     掌がからっぽになった。


    「剛士、」
     急に襲ったのは倦怠感。身に覚えのある気だるさ。これは寝起き特有のものだ。まだ頭が半分起きてない。そのうえ飛び切り夢見が悪かった時の。
     強く首を振って視線を泳がせる。部屋、自分の部屋だ。時間はまだ早い、早朝と言える時間。日差しがカーテン越しに透けてぼんやり青白く部屋の中に射し込んで、それが夢の中で見た窓のようで寒気がした。目を引き剥がすように隣を見ると、眠そうに目を擦る剛士が見える。ああ起こしてしまったと咄嗟に謝罪の形に口が動いたけれど音は出てこない。
     つい、と持ち上げられた目が健十の顔を見た途端、眠そうだった双眸が丸く見開かれた
    「……何だオマエ。泣いてんのか?」
    「え?」
     健十の手が頬に触れるより早く、剛士の指先が拭うような仕草をする。冗談ではないことが知れるその表情と仕草に堪らなくなって、撫でた指先を握り引き寄せると抵抗なく黒髪が首筋を擽った。
     夢で泣くなんて、とからかうこともしない。ただ黙って身を預ける剛士の体温を確かめるように指の先が背を辿っていく。
     剛士がいる。腕の中にちゃんと、剛士がいる。
    「剛士」
    「……なんだよ」
    「……あー、ううん。剛士だなって思って」
    「わけわかんねえ」
     だよね、と思わず苦笑した健十の手の中で拭った涙に濡れた手が居心地悪そうに動いたかと思うと、強く手を握り返された。
     よく見知った物言いたげな視線がじっと下から見上げてくる。
    「ん?何?」
    「……ねぇよ」
    「え?」
    「居なくなんねえよ。オレは」
     呟いた剛士の妙に真っ直ぐな目に夢の中の横顔の記憶が薄れて、自然首を傾げる。きっと間抜けな顔をしてしまったのだろう。少しだけ表情を緩めた剛士が背に腕を回して、まだ眠い、と一言呟いた。
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