夢という名の走馬灯【萩松】ピッ(メールのプッシュ音、画面には送信完了の文字)
「じ、陣平ちゃん?一体どうしたって……」
「陣平ちゃん?」
松田は萩原の腕にしがみつき、顔を伏せている。ごつい見た目とは裏腹に、その身体は小刻みに震えていた。泣いているのだろうか。急なことで萩原は混乱しているように見える。プライドが高く、気位の高い松田がこんな姿を見せるなんて滅多にないからである。
「夢……」
「え?」
「夢を見たんだ。大きな斧を持った死神が、その炎で俺のことを焼き尽くしていく夢を。」
「……」
可笑しな話であった。他人に言ったら、夢ごときに何を怯えているんだと笑われるだろう。でも萩原なら否定しない。
「そりゃあ怖かったな、熱くて痛かったろ?よく頑張ったよ。」
コクリ、と小さく頷いたその頭を萩原は大きな手で撫でる。そのまま松田の頬に触れ、顔を上げて涙を優しく親指で拭った。
「でも……」
萩原は自らの拳を松田の胸に当て、最高の笑顔で言う。
「笑っとこうぜ。泣いてるより、笑ってる陣平ちゃんの方が俺は好きだぜ?所詮夢は夢でしか無いんだ。そんなんで暗くなっちまうくらいなら、明るく笑って、もうそんな夢見ないようにしようぜ。」
***
そう、どう足掻いたって夢は夢でしかない。近いようで、現実とは遠くかけ離れている。だから布団から起きてドアを開けた時、当然のようにそこにいるお前の姿を見て泣いてしまったんだ。ああ、ここも夢なんだ、って。この世界は俺の理想でしかなかった。
3年間、ずっと夢に見ていたんだ。萩がいて、5人で笑い合えていたらって。ほんの少しだけ今でもそんなことを期待していた。いや、望んでたんだろう。笑おうとする度にその笑顔が脳裏にこびり付いて剥がれないんだ。だから上手く笑えなくて、カッコつけて強がって、このサングラスだって本当は———
ピーーーッ(爆弾の音)
「おっと、そろそろお別れの時間みたいだ。大丈夫だよ、陣平ちゃん。俺らには最強の仲間があと3人もいるんだから。」
「……ああ、そうだな。」
萩、お前もあの時こんな気持ちだったのか?それは向こうで聞いた方が早いだろう。
「後は任せたぜ。諸伏、班長、零……」
夢が覚めていく。