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    Némo.🐠

    @Nautilus_357

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    1942年~1948年。イングランド・ウェールズに住まう少年の日記。

    ##ミス・パレード

    オリバー・ロアの日記1942年4月5日。晴。
    今日はエイプリルフール。けれどそんなこと僕にはどうでもよく――いいや、世間でもそこまで重要視はしていなかった。イースター当日まであと5日。世間はイースター・バニーの飾りに、イースター・エッグの作成も終えて今か今かと待ちわびているようなときだった。
    世間がそわそわと落ち着きがないように、僕もはやる気持ちを抑えられずにいる。
    その日はとくに落ち着かず、家の裏にある森にまで足を踏み入れた。森のなかは街中とちがい、緑が生い茂っているはずだったが、今年は違った。だれがやったのだろうか。ピンク、水色、黄色、紫。色とりどりのリボンにイースター・エッグ。ゼリービーンズが森を鮮やかに彩っていたのを覚えている。


    1943年4月25日。曇。
    今日はイースター当日。ガールフレンドをイースターの祭りに誘ったが、あろうことか当日になって約束を破られてしまった。僕はなんとも言えない不快感を胸に抱きながら帰宅したが、家の中に入る気にもなれずに家の裏にある森へと足を運んだ。
    森のなかは去年どうようカラフルに彩られており、もう16歳だというのに子供のころのように卵を探してあるいた。ある程度深くまでいったところで、それ以上先に進むのをやめてしまった。来年も森に訪れてみようと思う。覚えていたら。


    1944年3月28日。晴。
    引っ越しが決まった。父の転勤だ。僕はそのことが受け入れることができず、家を飛び出し森の中へと進んでいった。
    夜の森はいつもなら闇に包まれているはずなのに、なぜか明るくまるで昼間の様だった。けれどこの日記を書くまではそんなことは気にならず、ただ無心に森の奥へと走ったことしか覚えていない。
    森はイースターの飾りで華やかだったが、森の奥深くにある、木々が植えられていない小さな草原だけは一等輝いて見えた。まるで不思議の国のアリスのお茶会のような会場があるではないか。そしてそこには、僕と同じ年ごろの女の子も。
    彼女は僕のもとへとやってくると、僕の手のひらにカラフルなゼリービーンズを山のようにおいた。
    そのあと、どう家に帰ったのかは覚えていない。ただほんの少し幸せな気持ちと、父の転勤は昇進故なのだからと自然と受け入れていたことはぼんやりと覚えている。


    1945年4月1日。雨。
    ウェールズでのイースターははじめてだ。イングランドにいたときとそう変わらないけれど、友達がなかなかできない僕にとってこのイベントはほんの少しだけ億劫であり、同時にじっくりと主へ祈りを謳うことができる日でもあった。
    今日は郊外を少し離れてすっかり人のいなくなった村へと訪れてみた。神父のいない教会だけはなぜかイースターの飾りが施されていて顔を出してみれば僕と同じ年くらいの女の子がいた。
    彼女は微笑みながら僕に赤い卵を渡した。
    そのあとは彼女とともにイースターを祝い、日が落ち始めたところで家へと帰った。ただ、ふしぎなことに、どんなことをしたのかと細かいことは覚えていない。


    1945年4月2日。雨。
    僕は彼女のことを忘れないように、ここに書いておこうと思う。
    彼女は黄色とピンクをもつ不思議な髪の色をしていた。服は黄色で、フリルがあしらわれたエプロンを着けていた。大きなボンネットに、2色使いのリボン。日傘を片手に、バスケットをうでにかけていた気がする。
    目の色は……思い出せない。また彼女に出会えた時、きちんと目に焼き付けておこう。

    1946年4月21日。晴。
    今年も教会にきた。去年と同じく、誰もいない村であるにも関わらず、この教会はイースターの飾りで華やかに彩られていた。けれど、彼女の姿はない。
    僕は一人で主の復活を祝い、うさぎの形をしたチョコレートを備えて帰った。
    帰りに、桃色のうさぎをみかけ、彼女もこんな髪の色をしていたなと薄れてしまった記憶を思い出した。


    1947年4月6日。雷。
    今日はイースター当日。けれど雷がひどい。僕は一昨年・去年と赴いた協会には向かわずに、家のなかで過ごしていた。
    いまにでも大雨になりそうな天気で、窓の外から飾り付けた庭を眺めて「雨と風でだめになりそうだな」と思った。


    1948年3月20日。晴。
    僕は病院に来ている。ここ最近体調がすぐれないとおもって診断に来た。
    結果がでるにはしばらく時間が掛かるらしい。暇を持て余した僕は病院内にある庭に出てあたりを散策していた。そこは控えめにイースターの飾り付けがされていて、イングランドにいたときの森を思い出した。あの森もイースターの時期になると、華やかに飾り付けがされていたっけな。あれは誰がやっていたんだろう。
    そういえば、僕は彼女の声を聞いたことがない。
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