精神科医の日記。1891/3/24
イースターの時期の子供というものは面白い。必ず何人かは「桃色のうさぎの女の子」に出会ったというのだ。
1891/3/25
今日は13歳の女の子を診た。彼女は私には見えない何かを膝にのせながら「このこはミス・パレード。桃色うさぎの女の子」と言った。
1891/3/26
今日からイースター・パレードが始まる。私はこの祭りがあまり好きではない。
1891/3/27
今日もこの間と同じ女の子の診療だ。彼女がいうに「ミス・パレード」はキリストが遣わす三位一体のうさぎらしい。私には理解ができない。
1891/3/28
明日は復活祭だ。私はキリストを信仰しているわけではないため、この祭りに意味を感じない。
1891/3/29
なんということだろうか。私は今朝、「ミス・パレード」を目撃した。彼女の話では「うさぎ」と聞いていたが、あれはれっきとした女の子じゃないか。
1891/3/30
ミス・パレードのことが気になって仕方がない。毛先だけが黄色い桃色の髪は、緩やかで愛らしい。うさぎの耳の飾り物は手作りだろうか?一目惚れとはこのことを言うのだろう。
1891/4/5
彼女のことが気になって4日も日記をつけるのを忘れてしまった。ミス・パレードには会えていない。
1891/4/6
今日はいつもの彼女の診断日だ。彼女を迎え入れ私は驚いた。今まで目にすることのなかった桃色のうさぎがいたからだ。「そのうさぎはどうしたんだ?」私がそう尋ねると彼女は「先生、この子はこの前もいたよ」と笑った。
1891/4/7
会えた!会えたぞ!私はミス・パレードに出会えた!街中で日傘をさしていた。勢いで腕をつかんで驚かせてしまったが、彼女は微笑みながら首を横に振った。
1891/4/8
今日は出会うことができなかった。彼女に似合うリボンを見つけたんだ。プレゼントできたらいいと思う。
1891/4/9
今日も出会えなかった。ユリの花が枯れてしまう前に会えればいいが……。
1891/4/10
街中がいつも通りになってきた。
1891/4/11
私は一人で、少し遅れたイースターの祝いをする。うさぎのチョコレートは小さいものを選んだ。
1891/4/12
久々に彼女に出会えた。似合うと思って用意していたリボンを渡せば、彼女は微笑みながらボンネットに飾っていた。ピンクと水色のが彩るボンネットは、ほんとうに彼女に似合っている。
1891/4/13
今日は診断の日だ。彼女はしとりと涙を流しながら「ミス・パレードが帰ってしまったの」と言った。なんとなく僕は、しばらく彼女に会えないだろうと悟った。
1891/7/24
数か月ぶりの日記だ。ミス・パレードを教えてくれたあの子が亡くなった。自殺だそうだ。
1892/4/17
また久々の日記だ。そして、久しぶりにミス・パレードに出会った。彼女は去年と何も変わらない。ふわりとしたピンク色の髪は、毛先だけが黄色い。白い日傘にイースター・エッグでいっぱいのバスケット。空色のドレス。1つ違うのは、大きなボンネットに私の送ったリボンが彩られていること。
私は彼女に愛を伝えたが断られてしまった。最後まで、声を聞くことはできなかった。
1894/3/25
娘が生まれた。そういえば、今日はイースターだ。ミス・パレードに出会ってしばらく、妻と出会い今は娘までいる。まるで彼女が私に幸運を授けたかのようだ。
娘の名は、イースター・リリーにちなんで「リリー」と名付けようと思う。