🛸🍃死ネタ(仮)とある日、holoXのアジトにて
「いろは、おはよう」
早朝、目が覚めた総帥は、
用心棒の部屋に入り声を掛ける。
しかし、用心棒は目を覚まさない。
「……なぁ、そろそろ起きてくれよ。
戦いで疲れてるのは知ってるけど、
さすがに数年は寝すぎじゃないか?」
彼女がどれだけ話しかけても、
用心棒が反応することはない。
「……また、お前の笑う顔が見たいよ」
寂しげに呟いた彼女は、
用心棒の指先へ口付けを落とした。
「……お前の目覚めを、みんな待ってるから」
そう言い残して彼女は部屋から去っていった。
遺体の腐食を防ぐ為に冷え切った部屋から。
まるで現実から目を背けるように。
さて、今日は何をしようか。
彼女は食事の後、何をする訳でもなく
ぶらぶらとアジト内を散歩していた。
すると、向かい側から誰かが歩いてくる。
仲間である幹部と掃除屋だった。
「おー、お前ら何してんだー?」
暇だったので2人に声を掛ける。
「ラプの代わりに書類作ってるんだけど?」
「沙花叉はその手伝いしてるだけー」
2人は相も変わらず仕事をしていた。
現在も目を覚まさない彼女のおかげで
やっと平穏が訪れたこの世界のために。
「あー後でやるから執務室に置いといてくれ」
彼女は少し申し訳なさそうな顔で話す。
無理もない、彼女の目元には隈が見える。
用心棒が亡くなった日から
ずっと、悪夢に魘され続けている。
その影響で、ろくに眠れない為、
飛び起きた場合は書類仕事をしていた。
アジト内にそれを知らない者は居ない。
しかし、わざと不満げに言うことで
彼女が話しやすいようにしているのだ。
「あ、そういえばさ、あれから数年経ったのに
いろは、未だに目を覚ましてくれないんだよ」
「……ねぇ、ラプ」「ん?どうしたんだ幹部」
「本当はいろはのこと、わかってるんでしょ?」
「……なんのことだ?」
「いろはが目を覚まさない理由のこと」
「……ただの寝坊助だろ」
「ねぇ、ラプラス。もう現実を見ようよ。
ラプラスのそんな姿、もう見たくないよ……」
「お前ら揃いも揃ってなんなんだ。
いろははただ疲れて寝てるだけだ。
意味のわからないことを言うな。
吾輩は狂ってなんかいない、正常だ」
彼女は2人に向かって淡々と言葉を放つ。
現在の彼女の心には仲間の声も届かない。
「……その書類貸せ、仕事してくる」
彼女は仲間の持っていた書類を奪い、
その場を去ってしまった。
「……やっぱり、簡単には認めないか」
「さすがに数年で認めるのは難しいよ。
だって、最愛の人が亡くなったんだから」
そう、総帥と用心棒は愛し合っていた。
2人の寿命差についても承知の上で。
しかし、最後の戦いで用心棒は亡くなった。
掃除屋が泣きながら無線で迎えを呼び、
到着した頃にはもう、息絶えていた。
屍の海のそばで、壁にもたれ掛かったまま。
その光景を目の当たりにした総帥は、
用心棒の幻影に取り憑かれてしまった。
『ただ寝てるだけだ』
用心棒は生きていると言い張り、
最愛の人の死を認めようとしなかった。
毎日、用心棒が起きてこないと言う総帥に
仲間達も最初は話を合わせていた。
しかし、数年経っても変わらない為、
半年前から話題が出た時は現実を見るように
総帥の心に訴えかけているが、全く効果なし。
本人が言わないと目は醒めないだろう。
だが、当の本人は亡くなっている為、
仲間達には現状維持しかできないだろう。
「……いろはが、人間に転生して
アジトへ戻ってきてくれたらなぁ」
「本当はそれが一番なんだけど、
現実で起こる確率はかなり低いよねぇ」
仲間達は、半ば諦めているようだった。
総帥が目を醒ますには、亡くなった用心棒が
人間に転生し、記憶も甦り、アジトへ来る。
そんな理想のようなことが現実で起こるなど、
ありえないと思う者が多いだろう。
彼女らも有り得るはずないと考えていた。
しかし、その理想が現実になるのは、
そう遠くない未来だと彼女らはまだ知らない。