マイネームイズ きれいな子を見つけた。
おそらく、同じくらいの年齢だと思う。
けれど、そのどんな子よりも聡明そうで、堂々として、ひたむきで。
なにより、他に知るどんな子どもたちよりも意志の強い眼差しが印象的で。
いつしか、彼を遠くから見ることが日々の楽しみとなっていた。
この城にいるということは貴族の子女なのだろうか。
陽光に輝く髪も、きらきらとした眸も。伸びやかな四肢も。
あの子を見つけてから、それは密かな宝物。
あの子と話をしてみたい。
名前は何というのだろう?
本は読むかな。小説? 絵本? それとも図鑑?
虫を採ったりはするのだろうか?
中庭の木々には大きな蜻蜓が来ることを彼は知っているだろうか?
「こんにちは」
「こんにちは、きみは?」
「……わたしは……」
初めての会話。何を話したのかよく憶えていない。
物覚えは悪くない方だと思っていたのだけれど、その一挙手一投足に見惚れてしまい、頭に何も入ってこなかった。
ただ、夢中で喋って、とても楽しかったことだけは確かだった。
けれど、親愛なるきみ。
わたしはきみに名乗れない。
きみがわたしの名前を知れば、きみも打算的な野心家の大人たちが預けていった『友人たち』のようになってしまうのではないかと。
それが恐ろしくて。
きみは名前を教えてくれたのに、臆病で卑怯者のわたしを許して欲しい。
グロスタ。明日はきみに名乗れるかな。