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    夜星Δ

    @Lovehonkai0129

    CPに脳焼かれたオタク 日本語/english/한국어

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    ケビスウの探偵パロ 支部にまとめて乗せるまでの置き場

    #ケビスウ

    探偵パロ いつも通りの警察隊。いつも通りの一日。いつも通り出勤して、上司のスウ先生に挨拶をして、仕事に取り掛かる。毎日睨めっこしても片付かない書類の束を整理しながら、誰も自分を見ていないか辺りを見回す。束の中に隠れる数枚の書類を別の部署まで確認するふりをして、ぐしゃりとポケットの中にしまい込んだ。これは最近増えた仕事の一つだ。
     その足で給湯室に向かい、二杯の珈琲を淹れ始める。かかっている時計が指し示している時刻は十時半ぴったり。この時間になると、上司のスウ先生は決まって珈琲を飲む。こうして先生の一番近くでサポートするのは、唯一と言っていいほど好きな仕事だった。
     所狭しと書類が並ぶ先生のデスクで、毎日開けられている写真立ての近くにカップを置く。ここに置けば必ずその場で飲んでくれることを知っているのも、自分だけだ。
    「そうだ。先生、もしよかったら今夜、一緒にご飯食べに行きませんか」
     前々から、入念に調べていた食事店に行かないかと声を掛ける。職場ではよく話しているし、たまにランチを一緒に楽しむことだってあったから断られないだろう。
    「ああ……。ごめんね、夜はいつも用事が入っていて」
     申し訳なさそうに話す先生に、そうですかと張り付けた笑顔で答える。踏み込んだことをしただろうか。でも、用事があるのなら仕方がない。先生は警察隊の中でも一、二を争うほど多忙な人だから。
     お近づきになるチャンスを逃してしまったが、今日だけであきらめてしまう自分ではない。またどこかで誘おうと思い仕事に戻る。夕食を断られてしまった手前、もう一度誘うのもくどいかと考えランチは一人で済ませ、任されていた仕事をこなせばあっという間に退勤時間は過ぎていた。
     気付くとスウ先生はもう退勤してしまったようで、いつも置いてある鞄も見えない。挨拶し損ねてしまったが、自分にもこれからもう一つ仕事が待っている。警察隊から少し離れた大通りにある電話ボックスでダイヤルを回せば、二コールで機嫌の悪そうな男の声が受話器に響き始めた。
    「今日の仕事はどうだ。ヘマしたらすぐに捨てることだってできるんだからな」
    「ああ、分かってるよ。お前の言う通りやってるんだからもういいだろ。俺はこんなことしたくないんだ」
     電話ボックスの中で、なるべく声が外まで響かないよう苛立ちを抑えながら受話器を握る。そう、本当はこんなことなんてしたくなかったんだ。それなのに、ただ警察隊にいるってだけで都合よく駒にしやがって。
     数か月前、警察隊での仕事を終えて帰っていると、暗い路地裏で声を掛けられたのが最初。金は積むから警察隊とのスパイになって、自分たちの犯罪をもみ消してほしいという内容だった。普段なら到底相手にしないが、どうしてかあの時了承してしまって、決まった時間に電話で報告しつつ、自分はせこせこ内側から手を回している。本当に、どうしてあの時あんな犯罪に乗ってしまったのだろう。金がなかったからかもしれない。それとも、今の生活がつまらなかったから? 次第に押し寄せる後悔で一人心に波を立てながら、声色に出さないよう精一杯注意した。
     スウ先生を誘うために調べた、ここら一帯のお洒落なレストランに一人で入る気も起きない。いつも通り、そのまま近くのパン屋で適当なパンでも買って帰ろうと考える。安酒も買えなければ誰かと食事に行くことさえうまくいかない、灰色の人生に嫌気が差してきた。
     早く帰ろうと、雨が降り出しそうな空模様を眺めつつ電話を切る。いつもと違うパンでも買おうか、なんて向かいのパン屋を眺めていると、ガラス張りの壁の奥に良く知る髪色をなびかせた人を見かけた。スウ先生、今日の夜は用事があると話していたのにどうしてパン屋に? 道路を渡っていると、その隣に背の高いロングコートの男性が見える。窓際に並べられたパンを楽しそうに笑いながら選ぶ先生の顔が、あまりに新鮮で思わず足が止まってしまった。
     いつもの穏やかな笑みとは違う、もっと花が咲くような明るさを含んだ笑顔。隣に立つ男は帽子を被っているから顔は良く見えないが、その異様に近い距離感がやけに目に付く。男の方は深々と帽子を被って顔も見えないが、周りを行き交う一般人とは一線を画すような異彩さを放っていた。背も高く目立つから、というのはありそうだが、それにしてもなんだか怪しい。
     勘繰ってしまう思考は、すぐ近くで響くクラクションの音で中断された。形式的に謝りながら道を駆けると、騒音が気になったのだろうか――スウ先生がこちらを向く。だというのに、自分には気づいていないのかふっとまた隣の男の方を向いていた。
     自分との誘いを断った理由がもし、あれだとするならば。どうしても納得がいかない。だって自分は、先生のすぐ下でずっと働いてきて、誰より先生のことを知っているのに。
     その後はよく覚えてない、ぼんやりと家に帰って、酒にも溺れられずに浅い眠りについて。いつも通り仕事に行って、いつもどおりのスウ先生に会って。いつも通りで終わると思っていたのに、今日は仕事が長引いて先生と二人きりになってしまった。本当に『いつも通り』なら嬉しいはず。だけれど、脳裏には昨日のことが焼き付いて離れない。考えるより先に、帰り支度をする先生に声を掛けてしまった。
    「あの、先生」
    「この前……夕方、知らない男の人と一緒に居ましたよね。あっ、あの人誰なんですか。警察隊のスウ先生が、あんなに怪しい人と一緒にいるなんて、何かあるんですよね。教えてくださいよ」
     焦った気持ちのまま先生の細い手首をつかむ。痛そうに一瞬顔を歪めたが、すぐに見たことないような程柔らかく、愛おしそうに微笑むものだから、目がくらみそうになった。
    「親友だよ。それと」
     相棒、と聞こえた瞬間、後頭部に衝撃が走る。やけに床が近くて、初めて自分は後ろから襲われたのだと気づいた。どうしていきなり? 自分は今、ただ、スウ先生と話していただけのはず。
     重い頭でどうにか先生を見上げる。開け放たれた窓から差し込む月光は、先生の後ろにもう一つの人影を映し出していた。柔らかな白髪に、逆光のなかでも光って見える二つの碧眼でこちらを睨みつける彼を、自分は知っている。警察隊にも恐れられている私立探偵だ。どうして、こいつが今ここに? もしかして、自分が事件に加担していたことがばれたのか。そんなはずない。だって、事件の証拠は全てもみ消したし、警察隊に残っていた書類だって上手い事隠し通したはず。それに、スウ先生の親友ってなんだ。追いつかない理解が、焦りと動揺によって上書きされていく。
     自分が握っていたはずの先生の手はゆったりと、布を広げるように探偵によって持ち上げられる。片方の手首を優しく握っていたその黒手袋はすり、と艶めかしく手のひらを撫で、自分の知らない先生の素肌が青白い月光で晒された。今までの動揺がすべて目の前の光景に塗りつぶされて、目も思考も釘付けになってしまう。ちょっと、と先生が彼を見上げるときに見えた首筋さえ扇情的で、クラクラしそうだ。
     ゆっくりと指の間に這われた黒が、関節の一つ一つ、爪先の一つ一つを確かめるように優しく撫でて、きゅっと握ると同時に探偵の口元が弧を描く。恐ろしい程に冷たい瞳はとうに自分を映さず、知らない顔のスウ先生を見つめていた。
     段々と目が霞む。殴られたときの衝撃もそうだが、頭を床に打ち付けたせいで視界がぐらぐらしてきた。目の前に広がる景色は悪夢みたいに最悪で、見たくなんてないはずなのに。月明かりに照らされる先生の知らない顔を、知らない肌を、それを自分のものと言わんばかりに見せつけるあの探偵から、どうしたって目が離せない。
     黒手袋に先生の細く華奢な指が重なる。そのコントラストも二人の表情も、完成された芸術品のようだ。月光のなか、一等強く風が吹いて探偵の帽子がただでさえ暗い視界を阻む。意識が途切れる最後、重なった二人の顔と脳が溶けるくらいにあでやかなマゼンタの瞳が、こちらを穿ったような気がした。
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