マフィアパロ「そう、肩の力を抜いて、呼吸を落ち着けるんだ」
「背を伸ばして、銃口がぶれないように」
「大丈夫、僕がついてる」
撃って、と言われて、怖くなって、焦って。そんな手じゃ到底引き金を引けるわけもなくて。ケビンの指が重なって、ぐっと押し込まれた。弾けるような銃弾の音がいつまでも耳の中で響いて、途端に血が広がる床にへたり込んでしまう。後ろに立っていたケビンは冷静に血の海から銃弾を拾い上げて、どこからともなく現れた黒服の男達に指示していた。
「…とりあえず、初任務お疲れ様」
「実践的なことはこれから慣れていけばいいさ」
銃弾が放たれる音が耳にこびりついて離れない。手についた生ぬるい血液と、狭い室内に充満する鉄の匂いが、目の前のもう動かない人間が生きていた―自分が殺してしまった何よりの証拠だった。
「……ご褒美でも必要か?」
親友の声だけが唯一変わらずに部屋に響く。
言われるがままにこくりと頷けば、優しく頭を撫でられ低く穏やかな声が耳元を掠めた。
「よく頑張った、君なら出来ると思っていたよ」
頭上にある血の通った暖かさが恋しくなって、脳の赴くままに手を伸ばす。いくら抱きしめられて甘い言葉を囁かれても、自分の意思と関係なく流れる涙が止まるわけでも無い。ひゅうひゅうと不恰好になる呼吸が頭に響いて、段々と親友の声は遠くなる。
止めないと、と回らない頭をどうにか使おうとすると、すぅと息を吸ったケビンの唇が重なり、一定の間隔で空気が送り込まれる。後頭部を支える手が時たま艶めかしく首筋をなぞるものだから、恐怖で流れていた涙の意味が途端に快楽によって塗りつぶされていった。
「……落ち着いたみたいだね」
手首をぐっと掴まれて立ち上がらせようとされるも、腰が抜けているからぺたりと座り込んでしまう。軽々と腰を抱いて自分を立たせたケビンの顔は、心なしか微笑んでいるように見えた。
「ファミリーへようこそ、スウ。君の協力を歓迎するよ」