同情と餞 同情
「待ってたわ」
緑髪の少女―いや、女性は落ち着いた様子で薄暗い研究室の椅子に腰掛けている。何年も変わらない、彼女の定位置。突然の来訪も予期していたようで、優雅に珈琲を啜っていた。
「…ケビンが聖痕計画の遂行者になるようだ」
「ええ、聞いているわ。それが?」
何の気なしに返されて、思わず眉がぴくりと動く。どうして声色ひとつ変えずに話せるのだろうか。
「彼にばかり全て背負わせるなって、今更じゃない?」
くつくつと意地悪く笑い、此方の言いたいことを見透かすように、蛇の双眸がじっとりと見抜く。
「ほら、貴方は何も言い返せない。しょうがないわ、それが事実だもの」
それでも、ただでさえ孤独な彼をこれ以上独りにしていいものか。これまで共に肩を並べて戦っていたのに、どうして大多数の人と同じように彼の手を離してしまうんだろう。関節が白くなるほど強く拳を握りしめて、歯を食いしばる。がり、と削れるような音がしてもお構いなしだ。
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