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    ももちどり

    ちまちまと

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    ももちどり

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    ⚠︎
    ・人殺すよ
    ・人間の扱いが酷めだよ
    ・不思議な能力的なサムシングがあるよ
    てろてろ1人で書いてた一次創作。
    とりあえずできてるところまで。
    気が向いたらTwitterで登場人物の紹介をしたい。

    まだタイトルない気がする 始まりは、なんてことないありふれた話。
     一人の浮気性の気がある男と家に定められた許嫁のねじれた関係性。男は家で待つ許嫁を放置して街で遊び歩き、気の良い女は男を好いていたからそんな男を健気に待ち続けた。
     そんなある日、ただ待ち続けた女が見たのは自分の隣の部屋で横たわる、どう見ても事後である男の姿。横には屋敷に連れ込んでいるところすら見たことのない豊満な体つきの女。
     また新しい女を連れ込んだのか、と傷つく許嫁。目が覚めた男は許嫁を見るやいなやこう言い放った。
    「なんだ居たのか。朝餉の準備すらせずこんな所で何をしている」
     と。別に、それが特段頭にきたわけではないのだろう。ただ、それまで溜まっていた鬱憤が、その瞬間に爆発してしまっただけ。
     女は着物を、髪を振り乱して部屋に走った。自室の隅に積み重ねられたそれらは呪術の道具。使うまいと思っていた、けれど心の拠り所にと持っていたそれらのうちの一つを取り上げる。
     何やら木の板にいくつもの札が乱雑に巻かれただけのそれは、けれど『死ねぬ』呪いのかかるものだと呪術師が言っていたもの。
     女は自身の手のひらを小刀で裂く。痛みすら感じぬと鬼気迫った表情で女は溢れた血液を札へと押し付ける。真っ赤に染まった白の札。そうしていつだったか寝てる間に男から取った少しの血液と髪の毛を、これもまた今しがた小刀で切り落とした一房の女の髪の毛で括り付けた。それを屋敷の裏、野良犬やら乞食の住み着いた路地で燃やす。
     その灰と小刀を握りしめて、女は男の部屋へと戻る。男は懲りずに目の覚めた女とまた事を致していたがそんなことは気にもとめず、女は握りしめた小刀を男の胸へと突き刺した。すぐに小刀を抜き、傷口に灰を押し込む。
    「琢磨さま。私にはもう、耐えられないのです。〝死ぬまで〟苦しんでくださいませ」
     斯くして呪いは成立する。抜き取った小刀を自らの胸に突き刺して女は自らの命を絶った。
     男は死ぬこともできずただ傷の痛みに喘いだ。自らの胸を貫く鋭い痛み。熱い血が溢れていく恐怖。刀傷が肺腑に達したのか痛みからか、息すらままならぬ苦痛。気の狂いそうなその所業に男は苦しんだ。愛人は逃げ出し既に居らず、医者を自ら呼べるほどの力もない。使用人などは元から居なかったため男はひたすらに、気絶と痛みで目が覚めるという苦難に苛まれ続けた。
     これは、そんな愚かで迂愚な男の話。
     
     **
      
    「様……旦那様……琢磨様!」
     使用人の呼びかける声に、微睡みの中から引き戻される感覚。あまり心地よいとは言えないそれに、琢磨は眉をひそめた。
    「何事だ」
    「っお世継ぎがお生まれになりましたのでご報告に参った次第でございます!」
     琢磨の表情に怯えた様子で、それでも臆せず使用人は屹然と告げる。
     使用人の言葉に琢磨は眉を上げた。
    「世継ぎと言うと……<ruby>男子子<rt>おのこご</rt></ruby>か。私が行ったほうが良かろうな。しばし待て。すぐに向かう。千夜は?」
    「千夜様は先に向かっておいででございます。生まれる瞬間に立ち会ったものかと」
    「そうか」
     琢磨は脱ぎ捨てていた紋付きの羽織を乱雑に羽織って廊下に出る。使用人が後に付いてくるのを横目で確認して顔すら向けず琢磨は部屋を尋ねる。近づくに連れて赤子の鳴き声が屋敷に響いていることにようやく気が付き足を早めた。
    「赤子は」
     襖を開けるなり、琢磨は無粋に尋ねる。老年の乳婆が産湯から取り出したばかりの赤子を琢磨へと差し出した。ぎゃあぎゃあと声を上げる赤子に眉を顰めて琢磨は赤子に触ろうともせず、実母へと目をやる。
    「呪いの具合はどうだ」
    「医者によれば、しっかりと受け継いでいるそうです……っ、ただ、他の子達よりも、幾分か身体が小さい、と……」
     曰く、未熟児ほどではないが身体が小さく、身体が弱いかもしれない、と。その言葉に琢磨は小さく笑った。獰猛な笑みにびくりと乳婆が怯えるのを尻目に琢磨はまた笑いを漏らす。
    「ああ……可哀想なことだ……せっかく産んだ息子が出来損ないだなんて、お前も辛かろうな」
     言葉だけ聞けばそれは気遣いの言葉だろう。言葉だけ聞けばそれは憐憫の言葉だろう。けれど、その表情を見れば、その声を聞けば、その全てが嘲りであることに気がつくだろう。嘲笑を隠そうともせず琢磨は続ける。
    「しかし……そんな小さな赤子一人でそんなに息を切らすとは……あと一人が限界か?」
    「! いいえ、いいえ旦那様! 私は、伊予はまだできます! だからどうか、処分だけは……‼」
     琢磨の品定めするような冷たい目に実母は体を震わせて訴える。その訴えを鬱陶しそうに手で制して、琢磨はまた冷たい目を実母に向けた。
    「その無様。お前は藤栄家には相応しくないだろう。最後の温情だ。回復し次第屋敷を出ろ」
    「そんな、旦那様! どうか、どうか御慈悲を……!」
    「くどい。藤澤、後は任せる」
    「はっ」
     影のように側に控えていた藤澤と呼ばれた男が一歩前に歩み出ると、実母は色を失う。幼い少女が——今年で四つになる千夜が突然剣呑になった空気に大きな目を目いっぱいに見開いて小さく震えている。
    「淡藤、千夜を持て。部屋に戻る」
     千代の横に控えていた男、淡藤が母の元に残りたがる千夜を抱き上げる。
     死ぬことのできない身体になってから、琢磨は屋敷に使用人を置くようになった。元を辿れば藤栄家と先祖を同じくする家系や、少なからず親交や信頼のある家系から、のみではあるが。
     彼らは皆、苗字や名前に〝藤〟の文字を持つ。それが、血統の証しなのだ。それが、藤栄の家に仕えるための条件の一つであり、権利を得るための最低限なのだ。
     淡藤は涙ぐむ千夜を抱きかかえたまま、足音もなく琢磨の後を付いて歩く。琢磨もそれが当たり前のように振り返ることすら無い。
    「かあさん……あわふじ、ちよのおとうとは……?」
    「——もう暫く致しましたらお会いできるでしょう。もう少々、辛抱くださいませ」
     藤栄の娘たるもの、泣き叫ぶことは許されていない。どんなに悲しくても、辛くても。藤栄の家は古くからの貴族。藤原の一族の本家。その一族の血を継ぎ、直系の家として栄えた。更に初代が、西の出身で商人の大家の娘を娶ったものだから、商人として栄え、元貴族として栄え、更には元荘園のおかげで地主としても栄えた。
     そんな貴族の娘、息子であれば感情の吐露は余程のことでないと許されない。それが、いくら幼い子であっても。
     自室に戻り、傍らに千夜を据えて琢磨は筆を手に取る。何やら書きつけ始めた琢磨の傍らで畳の目を数える千夜。
    「——ああそうだ、千夜。流れの行商人から面白いものを手に入れた。気に入れば良いが」
     ふと、琢磨が千夜を振り返って言う。文机の隅に置かれていた小さな絹の袋を千夜に手渡した。
     小さな手には余るほどの、けれど大人から見れば小さな袋を両手に持って、千夜は袋を膝の上で広げる。袋の中に入っていたのは小さな、砂糖菓子だった。星のような形をしたそれは、南蛮からの輸入品。未だ非常に高価な砂糖をふんだんに使った砂糖漬け。
    「コンフェイトとやらだ。私は甘いものは好かぬから、お前が食べなさい」
    「——ありがとうございます、とうさま」
     畳へと千夜が頭を下げると、琢磨はまた文机の方へと目線を戻す。それを察して千夜が頭を上げれば、傍らに控えていた淡藤が小さくうなずく。
     千夜はコンフェイト——金平糖を口に運んだ。片の頬が丸くなる。と、千夜は目を輝かせた。大きな目を、目いっぱいに広げて、驚いたように、嬉しそうに千夜は淡藤の方へと目線をやる。
    「お言葉になされば、よろしいかと」
     淡藤が柔らかい表情をして千夜に耳打ちすれば、千夜は琢磨の方へと少し寄り、「とうさま」と声をかけた。
    「これ、こちら、すっごくすっごくおいしいです! あまくて、あと、あまくて……あの、すごくおいしいです‼」
     明るく、子供特有の高さを持った声が心底嬉しそうに告げれば、琢磨はその表情を緩めた。千夜の専属でもある淡藤も、この場には居ないが琢磨の専属である藤澤すらも、そう見ることのない柔らかな顔。
     事実、呪いを受ける前は常日頃、女の前ではしていた表情なのだが、呪いを受けてからはそれどころではない。だから、滅多なことでは見せなくなった嘲りや含意のない表情。その顔に、千夜すら少し驚いたようだった。
    「——それならば良かった。まだあるからな。それはお前にやったものだ。許しを請わずとも、好きに食べると良い」
     千夜にそう、笑いかけて琢磨は文机の上、今しがた書きつけていた紙を持つ。そうして、くるりと襖の方を向いて声を上げた。
    「藤澤! 来い!」
     その呼び声から一分と経たずに襖の向こうから藤澤の声が通る。
    「琢磨様。藤澤でございます」
    「入れ」
    「失礼致します。……何か、ご用命でございましょうか」
    「ああ」
     音も立てずに部屋へと入った藤澤に、琢磨は紙を押し付ける。紙をちらりと一瞥して藤澤は、表情一つ変えずに琢磨へ向き直った。
    「良い名でございます。御嫡子へ?」
    「ああ。<ruby>占卜<rt>せんぼく</rt></ruby>師に一度通せ。問題がなさそうであれば、その名をつける」
    「承知致しました。暫しお待ち下さい。直ぐに聞いて参ります。他には何か?」
    「いや。それだけだ。……ああ待て、赤子を此処へ」
     琢磨の言葉に藤澤は頷くと部屋を後にした。
     その後姿をちらりと見て、琢磨は煙管を取り出すと、火を付ける。あっという間に紫煙が部屋に満ちた。
     けほ、と小さく千夜が咽せる。その様子を見て、困ったように眉を下げていた淡藤は、僭越ながら、と声を上げた。
    「僭越ながら申し上げさせていただきますと、煙草の煙は幼子の身体には障るものでございます。障子窓をお開けになっては如何でしょうか」
    「――道理か。……ああ、良い淡藤。斯様な些事、己でできるわ」
     そんなことで千夜の側を離れるな、と言外に含めての琢磨の言葉に、小さく返事をして淡藤は千夜の横へと戻った。
     琢磨が窓を開けて、部屋の紫煙が晴れた頃。足音一つなかった廊下から、藤澤が声をかけた。
    「琢磨様。御嫡子が到着なされました」
    「入れ」
     静かに襖が開かれ、藤澤が入ってくる。その腕に抱かれていたのは小さな赤子。生まれたばかりの男子子だった。
    「わぁ……」
     小さな両手で小さな口を隠すように、けれど感嘆の声が漏れてしまった千夜を今日限りは睨むことはなく、琢磨は藤澤が抱いたままの赤子を静かに見つめた。
     すやすやと小さな寝息をたてながら眠り続ける赤子。
    「……呪いも半端に継ぐと弱くなる。私のように不死ではなくなる。――哀れなものよな」
     果たしてそれは憐憫だったのか、侮蔑だったのか。微笑んだ形のままそう呟いた琢磨に、藤澤は目線だけで外を示した。
    「ああ、では頼んだ」
    「承知いたしました」
     端的なやり取りだけを残して藤澤は部屋を後にした。それを見送って、琢磨は千夜に手招きした。
    「私はもういいから、お前が抱いてやりなさい」
    「! 琢磨様、良いのですか?」
    「良い。……手を、清めに行きたいのでな」
     自分の半分程もある赤子を、淡藤に手伝われながら抱いて、千夜の顔は華やいだ。琢磨は千夜に赤子を預けてすぐに部屋を出て行ってしまったが、部屋にいることを許された千夜と淡藤は束の間の、甚く穏やかな時間を過ごすことができていた。
    「あわふじ、赤ちゃん、おなまえは?」
    「まだ決定こそしておりませんが……永惟様と付けるおつもりだと」
     小さな赤子はくるみに包まれて、手足のない芋虫のようにもぞもぞと蠢く。生まれたばかりの赤子特有の、乳臭い、命の匂い。久しく感じることのなかったそれに、淡藤の頬も思わず緩む。
    「そっかぁ。ちよの弟、永惟っていうんだぁ……そっかぁ……!」
     この家では子供は長くは生きられない。特に、男は。一六まで生きられない。だから、本当に束の間の穏やかさだ。束の間の凪だ。
     淡藤は一人思う。願わくば、呪いを継いだこの幼子が、少しでも長く生きられるように。千夜の名を考えたのは淡藤だ。千の夜を超えても生き延びられるように。呪いを強く継いでしまった幼子は、きっと長生きするのだろう。ただ、穏やかなその生を祈って。
    「――千夜様。永惟様はきっと苦労なさいます。どうか、助け合って生きてください。その生が、一六で途切れぬように。互いに、苦しまずに生きていけるように」
    「あわふじ……?」
     普段柔らかな眼差しで千夜を見る淡い藤色の目はいつになく真剣で、千夜は不安げにその目を見つめ返す。それをいつも通りの優しげな瞳で見つめ返して、淡藤はついと永惟に視線を向ける。肝の据わった子らしい。安定感のない、幼子の腕に抱かれたまますやすやと寝息を立てている。
     赤子にしては異様なほど、ぽっきりと折れてしまいそうな細い手足。琢磨のそれを受け継いだらしい柔らかなくせ毛。
     千夜は琢磨に愛された子だ。女子として二人目の、呪いを強く継いだ女だ。呪いを強く継いだ女は琢磨の子供を産ませられる。だが、千夜は一人目と二人目――喜多と小雪という名を持った彼女とは決定的に異なる点があった。喜多はほとんど、母親である和泉の容姿を継いでいた。
     けれど千夜は違う。千夜は容姿のほとんどを琢磨から受け継いでいた。琢磨と同じ、彫刻刀で切り出したような切れ目。幼くも、すでに周囲より高い身長に幼子にしては薄いからだ。母である伊予から継いだのは真っ直ぐで濡羽色の髪のみ。成長すれば、それはもう琢磨の生き写しのような姿になるだろう。
    「……なんだ、まだ此処に居たのか」
    「琢磨様」
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