無題オレの恋人はいつも忙しい
店にいる時に声をかけようとするが、大抵誰かと話している。
大牙がいたので、話しかけようとしたが
「サーセン。俺、ちょっと忙しいんで、後にしてくだせ―」と言いながら
去って行った。
今なら話せるかと思い、声をかけようとするが、悉く、失敗に終わる。
オレは、段々と苛ついてきた。
結局、店にいる間、一度も声をかけられなかった...。
明日は二人とも休みなので、大牙の家に行く事になった。
(家なら邪魔が入らないから、大丈夫でしょ)
そう思った。
でも、家に着いても、大牙は、忙しそうにしている。
大牙を驚かそうと、後ろから抱きついてみた。
「たーいが♡」と耳元で囁いた。
けれども、反応が薄かった。
「あ―、サーセン。ちょっと今手が離せなくて...」
その言葉に、ショックを受けた。
オレの方に振り向かず、淡々と放たれた言葉。
オレは、若干涙目になりながら
部屋から出る時に、
「あ~ぁ、せっかく明日は休みだから、お前とゆっくりしたかったのに」
そう言いながら、部屋を出た。
玄関に向かっていると、慌てて大牙が追いかけてきた。
「待ってくだせぇリコをほっといてサーセン」
「今やっている事を片付けたら、リコとゆっくり過ごすつもりで...」
青ざめた顔をしながら、オレの腕を掴んだ。
「お願いだから、帰らないでくだせぇ」
凄く真剣な表情だ。
だからオレは、大牙の方に体ごと向き直した。
「それじゃあ、やる事を早く終わらせてオレの事を、とことん甘やかして」
「今日は、ずっと話せなかったから、寂しかったし...」
そう言ったオレを、大牙は優しく抱きしめてくれた。
オレも抱きしめ返した。
「とことん甘やかしてやりますよ、覚悟してくだせぇ」
笑いながらそう言った。
その後、とことん甘やかしてくれた。
沢山話しもしたし、キスもした。
ずっと抱きしめていてくれた。時折、頭を撫でてくれたので、
オレもお返しに頭を撫でた。
大牙がとても嬉しそうな顔をしていて、こっちも嬉しかった。
明日は、一緒に出かける事にした。行き先は水族館。
以前、チケットを貰ったので、そこに行く事にした。
二人っきりで過ごす時間は、とても幸せで、満ち足りている。
お互いに抱きしめ合いながら、
幸せな気持ちなまま、眠りについた。
ふと、目が覚めた。
抱きしめているリコの顔を見た。
幸せそうな寝顔だ。
昨日は、色々あったけど、何とか
仲直り出来てほっとしている。
(リコが家から出て行こうとした時、凄い焦った...)
あの時、必死に止めた。
思いの丈を思い切りぶつけた。
涙目になっているリコを見た時、こんなに寂しい思いにさせた
自分に、凄い腹が立った...。
ひたすらリコを甘やかした。
嬉しそうな顔を見て、嬉しくて堪らなくなった。
(起きるにはまだ早い時間だし、もう少し寝ようと思い、リコを
抱きしめ直し、眠りについた)