慈雨と放浪ぽたり、ぽたりとシャツに小さな滲みができる。なんとなしに顔を上げれば、薄墨色だったはずの空は一部分だけ墨を垂らしたように浸食されていた。紫煙が空に溶けていく。
早く目的地に向かわなければ。そう思いながらも足取りを早めることはしなかった。初期刀に天気が悪くなるようだから、早く帰ってくるんだよと言われていたのを思い出す。それは無理そう、と心の中で謝罪をしてまた煙草を咥えた。審神者になってから始めた煙草はすっかり生活の一部になってしまって、最早無しでは過ごせない。
草花と土の匂いが強くなって、滲みができる頻度が短くなる。冷たいと思った時には手遅れで、髪もシャツもしっとりと濡れていた。髪が額に張り付いて気持悪い。駄目になった煙草を携帯灰皿に押し付けて、顔を拭う。滲んだ汗なのか雨なのか判別がつかなかった。
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