骨の話「俺の骨はここに埋めてくれないか」
無理にとは言わない、一部だけでいいんだ。執務室に書類を取りに来た近侍にそう言うと鋼色は訝しげに顰められた。
死んだら、どうするか。それは目下の課題であった。家族を残して出奔してしまった審神者には入る墓がない。そもそも、審神者の遺体は利用価値が高いとされ、一般の墓に入ることは出来ない。審神者の埋葬手段は政府か本丸か、その二択であった。だから、
政府で管理されるくらいなら、本丸がいい。
それが、審神者の出した結論だった。
「お前にはまだ、早いだろう」
「いつかの話だって」
「帰りたいところがあるんだろう。なら、帰ればいい」
出来上がった書類を読むでもなく、ぱらぱらとめくり、目についた修正点に罫線を引く。痛いところを突かれた、と思う。帰れないわけではなかったから。正確に言うならば、帰りたくない、が正しい。
「それが出来るならもうしている」
止められるのは分かっていた。大包平がそれを望まないことも。だから完全に八つ当たりだった。残してきた家族が心配じゃないと言えば嘘になる。しかし、それ以上にこの本丸が大切だった。
「不貞腐れてるのか?」
「うるさい、分からず屋」
それで、この話は終わるはずだった。要件はそれだけだからこの書類は俺が出しておく、と審神者が席を外すより早く大包平が口を開いた。
「お前は俺の……主、だろう」
審神者は居心地の悪さを覚えながら大包平の言葉を待つ。口では罵倒しても、完全に嫌いにはなれなかった。
「俺は刀で、お前は人間だ」
「だからお前は、俺より先に死ぬ。それは紛れもない事実だ。だが! 此処には、俺がいる。それだけでは不服か?」
「不服かって……」
「俺では不足かと聞いている」
大包平は真っ直ぐに審神者の目を見て言った。全てを照らし出すような光に息を呑む。直視するにはまぶしすぎるそれは、あまりにも。
「素面で言うの、ずるくね……?」