【82】ドライアドの気まぐれ 短い悲鳴と共にすれ違っていく女子を横目に柳生が校舎裏へと足を踏み入れたのは、好奇心以外の何物でもなかった。まるで幽霊でも見たかのような反応だと一抹の不安を胸に、立海大附属の有名スポットである大木の下を訪れる。そこには危惧したような不穏な空気はなく、代わりに熱心な眼差しを大木に向けて座り込む少年の姿があった。
一際目を引く銀髪には何枚もの桜の花びらが纏わりついており、神話に登場する樹木の精霊を彷彿とさせる。確かに幽霊に近しい非現実的な存在だと恐れられるのも何ら不思議ではないのかもしれない。
他者を惑わせる花びらの群れはそれなりの時間を此処で過ごしていた確固たる証拠。恐らくは前の授業をサボタージュしていたというだけの話だ。しかし「不真面目な態度は感心しませんね」と眉を顰めるよりも先に、桜と同化した彼の存在に柳生は心を奪われていた。
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