【82】隣の一等星 仁王が意図的にじゃんけんに負けようとするとき、どこか柳生を連れていきたい場所があるのだと知った。
違和感に気付いたきっかけは恐らくはまだ仁王本人も気付いていない癖であろう、嘘を吐こうとするといっとう低くなる声色だ。それに付随してこちらを執拗に観察する蛇のような眼差しが向けられたり、じゃんけんの掛け声がどことなくぶっきらぼうな物言いになる。まるで柳生に、この見え透いた詐欺を見破って欲しいとでも言いたげに。
初めのうちは故意だと知りながら罠に嵌まりに行ってもいいものか、疑り深く探りながらぽんの合図で出す手を決めていた。仁王の思惑に逆らって負けてみたところで特に咎められることも無い。いつも通りに柳生の運転で家路につくだけだ。なので最近は悩む間もなく、仁王が負けたいと思う日が訪れたら進んで勝ちの手を出すことにしている。彼がどんなところに連れて行ってくれるのかという興味と、二人で何かをしたいと願うひとときを大切に過ごしたかったからだ。
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