泳げないマーメイド私は中学を卒業した。平等院くんももうすぐ春休み。彼はアメリカに留学に行くらしい。子供の頃から海外に行っていたのは聞いていたから驚きはなかった。
私達は海岸の公園に来ていた。お気に入りのワンピースに、まだ勉強中のメイク。ヘアアレンジは自分では出来なくて、お母さんに編み込んでもらった。一方で、さっきまで練習だった彼は黒のジャージで、乱れた髪が汗で少し額に張り付いている。かっこいい、私の好きな姿だ。
春の海は静かで落ち着いていた。風がやわらかく、少し肌寒さを感じさせるけれど、それがまた心地いい。寂しさを隠すように、鼻歌を歌いながら彼の前を歩いた。彼はそれを遮ることなく後ろをついてきた。私が好きなアイドルの曲だから彼は知らないだろうけど、なんとなく彼の顔が穏やかで、これを気に入ってくれた気がした。
1033