陶酔窓から眺める夜の街は、まるで腐った夢を包み込むように重たく沈んでいた。
ガス灯が薄い霧の中にぼんやりと浮かび上がり、不吉な色で染め上げていく。
リチャードは、冷たい硝子を指先でじっとなぞった。指のひらひらとした跡が、まるで誰かが触れたかのように残る。
その感触は、ひどく生々しく、脳裏に消えない。
「……姉さん」
その名を、吐息のように囁く。優しさの欠片もなく、ただ冷徹に響く声。
彼の唇に浮かぶ微笑みは、無邪気な子供のものではない。
いや、それどころか――悪魔の微笑みだ。
机の上には、すでに開かれた羊皮紙があり、そこに滲んだインクが暗く光っている。
鉄の匂いが鼻をつき、リチャードはその匂いを深く吸い込んだ。
彼の手がペンを取り、滑らせる。その動きは無駄のないものだった。
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