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なんだか放っておけなかった。他人に優しくする自分に酔ってるんだろと喚き散らされては返す言葉も無いが、まぁ、理由なんてなんだっていいじゃないか。
いつも背中を丸めて、蒼白い顔をしていて―――その痩躯は、不健康を絵に描いた様な。気だるげで、眠たそうにまぶたを伏していて、けれど時おり獲物を見つけたみたいにキラリと瞳を光らせた。壱は、正しく猫みたいな男だ。
深夜の高速をあてどもなく走るのが好きだった。高校を出て、なけなしの金で自分の車を持ってからずっと。
昔はラジオを聴くことが多かったものだが、今は控えめな音量で、メロウな曲が流れている。これは架羅の趣味であり、また壱の趣味でもあった。二人の音楽の趣味や感性は、とにかくよく似ていた。
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