好吃的 湯浴みを済ませたクン・ラオは自室に戻ると、小さな灯りだけ点けてさっぱりとした身体を寝台に預けた。投げ出された四肢と瞼は心地よい疲労感が纏わりついて重い。
少し早いが、このまま寝てしまおうか。そう考えていると、枕元の炎がわずかに揺らめいた。誰が入ってきたのかは分かっている。
「何だ」
「いや、なにも」
どうやら緊急事態ではなさそうだ。ゆっくりと兄弟子の傍に立ったリュウ・カンの面差しは日中と変わりなく穏やかだった。だがそのまま何も言わず、目を細めてやわらかく微笑んだまま動かない。
もう眠いから、火急でないなら明日にしてくれ。そう言いながら右手を少し上げたときだった。
ラオの右手首を素早く、だが恭しく手に取ると、リュウはてのひらに口づけた。骨と肉のかたちづくる凹凸を確かめるように唇を滑らせ、中指の付け根にそっと舌を這わせる。指先の小さな傷を何度かなぞり、爪の付け根に吸い付き、指先を食む。ラオはそれを見上げながら少し眉根を寄せたが、振り払うのも咎めるために口を動かすのもなんだか面倒で、されるがままでいた。
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