「ほんっとにありえねぇ!なんでまたお前となんか…!」
「それはこっちのセリフだっての」
はぁぁ、と大きく溜息をついた扶瑶をみて南風もまた溜息をついた。殿下の手助けのため人間界に降りてくる間に揉めた回数は3回。殿下のもとへ向かう間にさらに3回。そして殿下が連れていた怪しげな青年に関し1回。計7回の口論を経て現在の状況に至る。
場所は寂れた宿屋の一室、の床の上。枕は二つ並んでいる。そう、なんと二人が通されたのは夫婦が泊まるような共寝用のものだったのである。元を辿れば殿下をあの青年が笑顔で部屋に引きずり込んでいったのがいけない。彼らをみた宿屋の主人が勝手に邪推し二人にその部屋をあてがいあまつさえ他の部屋も全て埋めてしまったのである。残された選択肢はその宿屋を離れるか二人で床につくかしかなかった。謎の青年がくっついている以上殿下を放り出すわけにもいかない。致し方ないと部屋に入ったはいいものの、やっぱりおかしいと叫ぶ扶瑶とそろそろ面倒くさくなってきた南風の間でさらに3回の口論が行われた。合計10回にわたる揉め事の末、彼らが一夜限り共に眠ることが決まったのである。
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