砂糖工場の昼休み*
子供の手を引いて、野球場を歩いていた。
アメリカにいるのだということは、なぜか理解していた。夢では良くあることだ。
整備されたグラウンドに選手たちの姿はなく、観客席も無人だ。
軍に接収されてしまった故郷のものとはレベルが違う球場だった。広大で、清潔で、そして人工的。どこの角度もピシリと鋭角的にキマっているし、グラウンドはそれが土であることを忘れるほど平らかだ。歩いても、土埃ひとつ舞わない。
手のなかにある細い手首と、滑らかな肌の質感で、子供は十代だと知れた。少年だ。
ずいぶん長いあいだ、こうして一緒に歩いている。それなのに彼はいちども口を利いていない。
私は振り返る。
真っ白なシャツと赤い肩章がまっさきに目に付いた。幼く、弱々しい体つき。彼はおもむろに立ち止まると、うつむけていた顔をゆっくりと私のほうに向けた。真っ直ぐな黒髪がわずかに揺れ、とがった顎の線が明瞭になる。広く、美しい額が露わになる。
2027