千回の春雨スープ「何で私が怒ってるかわかる?」
背後から聞こえてきた会話に、スタンドで注文した春雨スープを受け取る手が止まる。背後を通りすぎていく二人のあいだに流れる雲ゆきが芳しくないことくらい、振り返らなくてもわかった。身に覚えのある空気だ。レンチ自身、離婚の数ヶ月前になんども味わった。あの独特の胃がしめつけられる感覚は、積極的に思い出したいものではなかった。
──それさえわかれば、そもそも怒ってないんだろ?
もっとも言ってはいけないであろう答えをぐっと飲みこんだときの苦い味と、ついでに口論のお供と化した頭痛までもよみがえるにいたって、レンチはとうとう汗だくのマスクの下でイーッと顔をゆがめた。マスクは卒業したつもりだったが、やはりこういうときは便利だ。
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