ムーンライト・ドライヴ 形の良い唇からつぶやくような歌声がこぼれる。聞き慣れぬ異国の言葉に、俺はしばし耳を傾ける──
などと言えば、少しは恰好もつくのだろうか。
愚にもつかない考えごとを、俺は頭をふって追い払う。
高速を走るワンボックスカーは静かで、ともすれば居眠りしそうになってしまう。運転がうまいせいか、助手席は居心地が良かった。かすかに伝わる振動は、仕事終わりの疲れた身体には心地よく、よけいに寝落ちしそうだ。
まあ、英語だな。
眠気をこらえ、むりやり思考を引き戻す。乗せてもらった車内で、一人寝てしまうのはさすがに気が引けた。語学はからっきしな俺だが、それでも歌声からはスイムだのムーンだのと、多少なじみのある単語が聞き取れた。スイムは「泳ぐ」で、ムーンは「月」。それくらいは知っている。だから、あの歌詞は英語だ。
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