空港 美しい死に顔だったにちがいない。
まっさきに思ったのはそれだった。
兄の硝子の目は、生きている頃から時おり別の場所を見ているみたいに虚ろな色を映した。父も、母も、おれも、この世には誰も存在していないみたいな、夢見るような目つきを。その目を見るたび、おれは彼を殴りつけたいような、泣き出したいような衝動に駆られてはそっぽを向いた。唇を噛んで、喉奥から迫り上がる感情に耐えた。
「エリオットを殺す」
スマートフォンのマイクに向けて、おれの口は勝手に動いた。動いていた。もつれる舌と掠れた声がそう言うのを、おれは他人事みたいに聞いていた。
「見つけ出せ。生かしたままで。必ず」
おれの手で終わらせる。そう続けたつもりだった。
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