まちこMOURNINGジャミルに監督生を引き止めさせたかった()「いっ!!」「あ~、ごめんねぇ、カニちゃん」 バスケ部の練習中、なんとなくエースが上の空だと思っていた矢先にフロイドのボールが彼の顔に直撃した。幸いにも早いボールではなかったが、それでも重たいボールは顔面に十分すぎる衝撃を与えていて、たらりと鼻血が垂れている。「大丈夫か?」「いってぇ・・・」「全く・・・注意力散漫だぞ。おい、誰かタオル」「ユウ、帰るらしいっすよ」 誰かが投げたタオルはキャッチしきれず床に落ちた。一瞬じゃ言葉の意味が分からなくて、なんて返すのが正しいのか考えていると、エースはタオルを拾うことなく自分のTシャツの襟で乱暴に鼻血を拭って「医務室行ってきます」と言葉を残し体育館から消えていった。「小エビちゃん帰るって?なにそれ」 壁に思いっきりぶつけられたボールは大きな音を響かせると勢いよく跳ね返って、床を数回バウンドすると慌てて他の部員がキャッチした。静まり返った体育館に舌打ちが響く。「面白くねー冗談」 吐き捨てるように言って次はフロイドが体育館から消えていく。さすがにざわつき始めた部員を治めなければ、思 2716 まちこMOURNING余裕がないジャミル・バイパーの供養「君の一番は誰なんだ?」 壁に追い詰めて手首を握りしめると、それまで余裕だった表情がわずかに崩れる。身をよじって逃げようとする姿が自分が力でねじ伏せようとしている現実を鮮明にさせて惨めになる。「俺だって」「ジャミル先輩」「俺だって、君の一番になりたい」 丸い目で見上げる彼女はいつだって懐かし気に目を細める。俺に誰かを重ねている。俺は、俺しかいないのに。どれだけ方法を探したって、きっともう帰れない世界の誰かを重ねられるのは、惨めで、辛くて、死にたくなるんだよ。「ジャミル」 初めて先輩という言葉が消えた。彼女の目はまっすぐに俺を見つめている。「私の一番になりたがってくれるの?」「そ、そう言ってるだろう!」「そっか」 もう一度、そっか、と呟いた彼女は嬉しそうにはにかんだ。「・・・あー、もう・・・らしくもない・・・」 399 まちこDOODLEジャミルに悪態(?)ついてほしかった「存外」 絨毯の上から見下ろす彼女は両腕にたくさん本を持っていて、髪は大きく乱れている。泣いて腫らした目は悲し気に俺を見上げていた。「年上から“先輩”と言われるのは、気分が悪いものなんだな」「ジャミル!!」 スカラビアに向かおうとさらに絨毯を上げた瞬間俺の名前を叫ばれた。驚いて体のバランスを崩しそうになってオンボロ寮の方を見ると悲しげにこっちを見ていた彼女が思いっきり舌を突き出している。「これで満足か!17歳!」「・・・ははっ!」 聞いたことのない挑戦的な声に思わず笑ってしまう。「ああ、満足だよ。お姉さん」「生意気!」 怒っているような顔をしていたはずなのに、なぜか彼女も笑いだして大きく腕を振った。「また明日!」 352 まちこTRAINING初書きジャミ監title/プラム興味があったわけじゃない。最初は利用できると思って近づいただけ。まあ、実際は使えるどころか計画をめちゃくちゃにされて全てが終わってしまったけれど。 だけど、殺されかけたというのにそれでも逃げない彼女に少しだけ興味を持ってしまった。 ───興味を持ってしまった、のだ。「砂漠の夜は冷えるぞ」「・・・ジャミル先輩」 月明かりに照らされて輪郭が不安定に揺れる彼女がゆっくりと振り向く。鼻先は赤くなって吐息は微かに白く色づいていた。「確かに冷えますね」「・・・待ってろ、ブランケットを持ってくる」「わざわざ大丈夫ですよ」「ここで風邪をひかれたら俺の寝覚めが悪くなるだろう」「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」 全部を聞き終える前に踵を返して寮内に戻る。寝覚めが悪いだって?それなら関わらなければいいだけの話なのに、最近の俺は自分でも訳が分からないような行動をよくとってしまう。 彼女の隣は居心地が悪い。言えた立場ではないが何を考えているのか分からない節があるからだ。たまに向かう視線の先、そこには何もないはずなのに懐かし気に目を細める瞬間が、一番 7991 12