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    まちこ

    twst/ジャミ監が好き rkrn/di先生が熱い 好き勝手書き散らす場所にします みんな幸せになれ

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    まちこ

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    初書きジャミ監

    title/プラム

    #ジャミ監
    jamiAuditor

    興味があったわけじゃない。最初は利用できると思って近づいただけ。まあ、実際は使えるどころか計画をめちゃくちゃにされて全てが終わってしまったけれど。

     だけど、殺されかけたというのにそれでも逃げない彼女に少しだけ興味を持ってしまった。

     ───興味を持ってしまった、のだ。



    「砂漠の夜は冷えるぞ」

    「・・・ジャミル先輩」



     月明かりに照らされて輪郭が不安定に揺れる彼女がゆっくりと振り向く。鼻先は赤くなって吐息は微かに白く色づいていた。



    「確かに冷えますね」

    「・・・待ってろ、ブランケットを持ってくる」

    「わざわざ大丈夫ですよ」

    「ここで風邪をひかれたら俺の寝覚めが悪くなるだろう」

    「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」



     全部を聞き終える前に踵を返して寮内に戻る。寝覚めが悪いだって?それなら関わらなければいいだけの話なのに、最近の俺は自分でも訳が分からないような行動をよくとってしまう。


     彼女の隣は居心地が悪い。言えた立場ではないが何を考えているのか分からない節があるからだ。たまに向かう視線の先、そこには何もないはずなのに懐かし気に目を細める瞬間が、一番胸がざわつく。なのに俺は今日も彼女の隣に立とうとしている。


     洗濯したばかりのブランケットを片手にバルコニーへ戻ると、彼女は立ち尽くしたままぼんやりと空を眺めていた。つられて上を向くけど何かおかしなものが浮かんでいるわけでもなく、ただ俺にとっていつも通りの夜空が広がっている。



    「ほら」



     驚かせないようにわざと咳払いと足音を立てて近づいてブランケットを肩にかければ芯まで冷え切った髪が手の甲を撫でた。



    「ありがとうございます」

    「・・・君はずっと、なにを見ているんだ?」



     居心地が悪いと思っている隣に並んで肌が淡く光る彼女の横顔に問いかける。答えは分かっている。空だ。彼女は夜空を眺めている。なのに胸のざわつきは大きく、落ち着く気配がない。理由が分からない靄がかかって晴れてくれない。



    「違うな、と」

    「違う?」

    「元いた世界はこんなにきれいな夜空じゃなかったから」



     あ、と言葉が胃の中に落ちた。彼女があの目をしている。懐かし気に、何かを見ている。



    「・・・何を見ている」

    「え?」

    「君は、ずっと」



     ブランケットの端を握っていた手を乱暴に取った。白い肌は氷のように冷たくて、無駄に上がりだした俺の熱を吸い取っていく。丸い瞳に映っていた俺の顔は、情けなく泣きそうに見えた。



    「ジャミル先輩もそんな顔をするんですね」

    「は」

    「いつも飄々としてるから、学生には見えないなって思ってました」

    「・・・同じ学生だろう」

    「これでも私、向こうでは成人してたんですよ」



     何事もないようにそう言った彼女は強く握っていたはずの俺の手から力を入れることなく抜け出した。



    「私がずっと見てるのは、思い出かもしれませんね」



     ざわめきは大きな鼓動に変わる。嫌な深さで胸が鳴る。思い出を見ている?それなら目の前の俺に彼女は何を重ねている?



    「・・・不快だ」



     こんなことが言いたかったわけじゃないのに、気づけば零していた言葉を彼女はゆっくり掬いあげた。



    「ごめんなさい」









     あんな顔をさせたかったわけじゃない。あんなことを言わせたかったわけじゃない。勝手に興味を持ったのは自分だ。勝手に近づいたのも自分だ。居心地が悪いと思いながらも隣にいたのは、自分だ。彼女は何一つだって悪くないのに、傷つけてしまった。


     彼女は自分の世界に帰れないんだぞ?









     夢を見る。彼女から責め立てられる夢。傷ついた、酷いやつ、近づかないで、なんて、見たこともない泣き顔で俺を突き放す彼女は、きっと俺が罪悪感から逃れるために生み出した幻だ。現実の彼女は俺に近づくこともなく今まで通り懐かし気に目を細めてなにかを眺めている。決して避けられているわけじゃない。だけど確かに超えられない線が存在してしまった。殺されかけても逃げなかった彼女を、なぜ遠ざけてしまったんだろう。なぜそのことをこんなにも後悔しているんだろう。



    「ジャミル先輩」



     しばらく聞いていなかった声が後ろから聞こえて、勢いよく振り向けば髪飾りの鈴の音が耳元で大きく鳴る。俺の背後に立っていた彼女はノートと教科書を抱えてぎこちなく笑っていた。着ていた制服は、泥だらけだった。



    「どうしたんだ、それは」

    「転んじゃって」

    「・・・どこで?」



     俺の質問に笑顔を崩さないまま木の影を指さした彼女の指はなぜか小刻みに震えていた。



    「あそこら、辺、かな?」



     落ち着かない視線にはっきりと嘘が見えた瞬間、俺はあの日の夜と同じように彼女の手を乱暴に握っていた。その勢いでずり落ちる制服の下から見えた手首には赤い手の跡がくっきり残っていて、ぎこちなかった笑顔がくしゃりと潰れる。



    「・・・たすけて・・・」



     か細い声で助けを求める彼女の目じりから涙がこぼれる瞬間が瞼の裏に焼きつく。










    「医務室と寮、どっちがいい?」



     声を潜めて出した2択に彼女は迷いなく後者を選んだ。その選択に心のどこかでほっとしつつ急いで向かおうと手を引っ張れば、足の力が入っていなかったのか彼女の体が大きくよろけた。慌てて腕を伸ばすと華奢な体は片腕で簡単に抱き留められた。あまりの軽さに思わず凝視すると首を回した彼女が情けなく眉を下げるものだから、ようやくハッとしてまっすぐ立たせる。



    「いきなり引っ張ってすまない」

    「大丈夫、です、ありがとうございます」

    「・・・急ごう」



     あれほど夢で泣き顔を見たはずなのに、止まらない涙を見るたび胸がずきずきと痛んで仕方ない。下唇を噛んで彼女の震える手を握ったまま鏡の間まで急ぐ。




    「準備をするから俺の部屋で待っててくれ」

    「ごめんなさい、ご迷惑おかけします」

    「いいから」



     無意識に彼女の頬を撫でて涙を拭う。されるがまま、涙の量を次々増やした彼女は小さく口で呼吸をしていた。









     包帯や消毒液を準備しながらふと気づいたのは、寮のことより彼女のことを優先して考えている自分がいたことだった。きっと医務室とスカラビアの2択でスカラビアを選んだことで少なくとも害を与えたのがうちの寮生じゃないことに安心しているはずだ。

     自分の変化が気持ち悪い。



    「入るぞ」



     空気がのどに詰まった。座り込んだ彼女が震える体を抱きしめて息を荒くして泣いていたから。息はどんどん荒く浅くなっていって、慌てて近づくと薄い肩が大きく跳ねた。上げた顔、目は確かに見たことのない恐怖の色に染まっていた。



    「大丈夫、落ち着いて」

    「じゃ、み」

    「話さなくていい」



     触れていいのか迷って宙を彷徨った手を握られた。肩を抱き寄せそうになった腕は、彼女の背中を擦る。



    「俺が数えるから、合わせてゆっくり息を吐くんだ。深く呼吸をしたらもっと苦しくなる」



     落ち着かせるようにゆっくり数字をカウントして合わせるように呼吸をさせる。繰り返せば俺の手を握りしめる濡れた手の力が徐々に抜けていくのが分かった。とりあえずよかった、と胸をなでおろす。



    「ごめんなさい」



     落ち着いた彼女が最初に発した言葉は謝罪の言葉だった。謝られる理由が何もなく眉を顰めると、赤くなった自分の目元を指先で撫でながら彼女は苦笑いをする。



    「いい年した女がこんなに泣いちゃって」

    「泣く理由に年齢なんて関係ないだろう?」

    「・・・優しいですね」

    「・・・そんなことないよ」



     優しくなんて、ない。




    「・・・理由を聞いても?」



     切り傷が出来ている場所に消毒液を含ませたガーゼを当てていると、痛みに顔を歪めながら彼女はつぶやいた。



    「・・・突き飛ばされて、そのまま腕を掴まれて」



     痣になってしまった腕を眺める彼女の目がまた恐怖に揺らぐ。



    「私なんか押し倒したところで何も楽しくないでしょって、言おうと思ったけど、声が出なくて」

    「うん」

    「必死で蹴り飛ばしたらジャミル先輩が見えたから、思わず声を・・・」



     かけちゃって、と消え入りそうな声で呟いた彼女はまたぼろりと涙をこぼした。



    「怖かった、なあ」



     無理やり過去形にして笑おうとする彼女をたまらず抱き寄せた。見えたうなじには赤い切り傷が白い肌に生々しく走っていた。




    「しばらくは一人でいないほうがいい」

    「はい」



     俺の隣にいればいい、なんてよく分からない感情を飲み込んで彼女から目をそらした。



    「・・・グリムやエースたちと離れるなよ」



     言えば彼女は「はい」と素直に返事をした。その返事が心に引っかかるなんて、俺は何を期待しているんだろう。










     大体危機感がなさすぎるんだ、ここは男子校で女は君ただ一人なんだぞ。軽率に個人で動き回ってこれ以上何かがあったらどうする。誰も助けにこなかったら今頃君はどうなっていたか分かっているのか?俺たちより長く生きてたのなら、分かりそうなものだがな。

     元いた世界でもこんなことがあったのか?



     彼女をオンボロ寮に送っていった帰り道、取り留めなく彼女の泣き顔と傷を思い出しながら自分の言葉と混ぜ合わせる。過呼吸になっていなかったらこんなことを言っていたのだろうか。それとも何も言わなかったのだろうか。どう対応するのが彼女にとってよかっただろうか。考えても答えは出ないのは分かってるのに頭がいっぱいになる。スカラビアとは違った湿気を含んだ風を切り、俺は冷静になれない自分が情けなくて仕方なかった。









     エースとデュースに挟まれて歩いている彼女を見かけた。うなじの傷が気になるのか首をしきりに触ろうとしている手を止めたかったが声をかける勇気は出なくて、他の生徒に紛れるように歩き出す。



    「ジャミル先輩」



     鼓膜を撫でる落ち着いた声。人混みを分けてやってきた彼女はエースとデュースに手を振っていた。



    「先日はありがとうございました」

    「・・・どうしてこっちに?エースたちといたほうが」

    「怪我を見られるとちょっと・・・」

    「言及されたくない?」

    「・・・まあ、それもあるんですけど・・・」

    「ど?」

    「・・・あんなに泣けるぐらいジャミル先輩の隣って落ち着くんだと思うと、一緒にいたいというか」



     少し照れたようにはにかむ顔を見て、目の前がチカッと光る。



    「・・・周りに何か言われても知らないぞ」



     嫌な深さだった鼓動は浮上していき、胸のざわつきは柔らかな波に変わる。首筋の脈が耳元で鈴の音をかき消すほど大きな音で鳴った。居心地が悪いと思っていた彼女の隣は、ただ眩しかった。









    「いつも送っていただいてありがとうございます」

    「最近のジャミルはユウの面倒ばかり見ておかしいんだゾ。子分の面倒ぐらい俺様一人でみれるってーのに!」

    「すまないね。どうも俺は心配性な性格らしい」

    「あんなことあったあとに、白々しすぎるんだゾ」

    「まあまあ、せっかく送ってもらったんだから」

    「今度またスカラビアに来てくれ。ご馳走を振舞おう」

    「ほんとか!?」

    「ああ」



     彼女の腰のあたりでぴょこぴょこ飛び跳ねるグリムから彼女へ視線を戻すと、苦笑いですみませんと謝った。彼女は謝ることが多い。まるでその言葉で場を凌ごうとしているみたいに。



    「なぜ謝る必要がある?俺が誘ったんだ、気にしないでくれ」

    「すみ」

    「ん?」

    「・・・ありがとうございます?」

    「うん」



     無意識に顔が綻んでいたことに気づいて咳払いをする。驚いた顔でこっちを見たグリムも彼女も気づいてないようで助かった。



    「それじゃあおやすみ。戸締りはしっかりと」

    「はい、おやすみなさい」

    「おやすみだゾ!」



     箒にまたがりふわりと浮かぶ。高い位置からオンボロ寮を見下ろせばもうグリムは中に入っているというのに、彼女だけは笑顔のまま手を振っていた。少しだけ恥ずかしかったけど小さく手を振り返せば驚いた表情は穏やかな笑みへと変わる。じわじわ熱くなる顔を冷ますように、俺は箒を飛ばしてスカラビアへと戻った。

     月が大きくて、きれいだった。










     久しぶりに食堂で昼食を取りたいと言い出したカリムに仕方なくついていくと、人が混みあった中に彼女とエースたちを見つけた。エースはグリムと何かを取り合っていて、デュースは彼女の皿にサラダを盛ってやっている。騒がしくて声までは聞こえないが楽しそうにしていることだけはしっかり伝わった。───そして、またあの目で3人のやり取りを見ていることも。



    「あ、ユウたちのところ席空いてるな!取りに行ってくるよ」

    「待て、一緒に行く」



     カリムが大きく手を振って4人に近づく。声に気づいて振り向いた彼女は3人に向けていたあの目を俺とカリムにも向けて、小さく手を振る。・・・懐かしい思い出なんかあるわけないのに、懐かしそうに。

     腹の底に不快感がたまる。だけど誰も気づかず、そして気にせずのんきに会話を広げていた。



    「あ、今日の晩飯、みんなスカラビアに来いよ!」

    「え?いいんすか?」

    「あー!そうだ、ジャミルとも約束したんだゾ!ご馳走作ってくれるって!」

    「ほんとか!?ジャミル!」



     カリムとグリムの鬱陶しい視線が俺に集まる。



    「ああ、言ったよ」

    「じゃあ今晩でいいよな!」

    「カリム先輩・・・」

    「構わない」



     たぶん断ろうとしたはずの彼女の言葉を冷たくばっさり切り捨てる。顔は見なかった。

     見たくなかった。









     夕食は酷く盛り上がった。会話は絶えず大きな笑い声は響き、最後には躍るやつも出てきてたが、彼女はそれに混じるわけでもなくただ眺めながらクスクスと笑っていた。その余裕がまた腹の底に不快感を溜める。

     空いた皿が邪魔にならないように除けようとしたら、掴む前に皿が浮いた。横を見れば彼女が当たり前のように皿を持って笑っている。



    「どこに持っていけばいいですか?」

    「・・・客人は座っていてくれ」

    「なんかこういう時、手伝わないとソワソワしちゃって」



     迷惑だ、と切り捨てればいいのに。



    「・・・こっちだ」



     二人で空いた皿をキッチンまで運ぶ。誰もいない静かな廊下にまで騒ぎ声は響きうんざりした。



    「随分にぎやかですね」

    「ああ。頭が痛くなる」

    「すみません、私たちがお邪魔したばっかりに」

    「・・・先に誘ったのは俺だ」



     だけど「気にするな」とは言えなかった。彼女に優しい言葉をかけられるような余裕がなかった。それなのに、隣で彼女は余裕な顔をしているから腹が立つ。



    「向こうの世界でもこうやってみんなで盛り上がってごはんを食べたりするのが大好きで」

    「・・・」

    「でも私はうまくその中に入れないから外で笑ってるだけ」

    「・・・」

    「楽しいんですけどこっちでも変わらないなと思いました」

    「入っていけばいいじゃないか。別に気にするような奴もいない」

    「そうなんですけど、こうやって賑やかな輪から少し離れられる距離も好きなんですよね。わがままなんですけど」

    「・・・君はよく分からないな」

    「そうですか?」



     小首をかしげてくすくす笑う彼女の横顔に靄がかかるような感覚に陥る。遠い。



    「・・・ジャミル先輩?」



     ふと気づいたときには彼女の頬に触れて、輪郭をそっと撫でていた。俺を見つめる彼女はあの日と同じようにされるがまま不思議そうに瞬きを繰り返す。なんで、受け入れる。



    「・・・ごみが付いてた」



     なんで慌てない。



    「ありがとうございます」



     ・・・なんであのはにかんだ笑顔を見せてくれない?











     全員を送ったあと、鏡の間に戻る絨毯の上、思い浮かぶのは別れたばかりの彼女のことだった。なんで、で埋め尽くされる頭の中を必死になって整理しようとする。だけど全然うまくいかない。彼女のことになると、なにもうまくいかなくなった。特にあの目を見たら、



    「・・・あ」



     そうだ、懐かし気に見つめる目だ。俺はあれが嫌いだ。



     彼女の中の、“懐かしい”という感情が、嫌いだ。



    「なんだそれ・・・」



     消すことなんてできない感情を嫌うなんて、どうかしてる。



     そして、嫌いの裏にあるのは、興味だけではなくて。
















    「月が近い!」



     俺が言った通りしっかりと厚着をして、出る前に持たせた紅茶が入ったボトルを握った彼女は子供のようにはしゃいだ声で月を眺めている。普段夜に出かけるときにはない、背後に感じる人の気配は静かに背中に熱を持たせる。



    「ジャミル先輩、夜のお散歩に誘ってくださってありがとうございます」

    「いや・・・」

    「こんなきれいな空を見れて嬉しいです」


     俺の空返事に文句も言わず本当に嬉しそうに続けた彼女にさらに返事ができなくなった。
     この夜の散歩はずいぶん前から計画していたものだった。計画当初はただ純粋に空を見せたかっただけなのに、まさかこんなことになるなんて思っていなかった。


     ずり落ちそうになるブランケットを自分の方にかけ直して深く深呼吸をする。



    「・・・ユウ」

    「え?」



     名前を呼んだのは初めてだったかもしれない。続けるはずだった言葉がのどに詰まってうまく話せなくなる。一度大きな咳をして、ゆっくり振り向いたら、びっくりした顔で彼女は瞬きをしていた。



    「嫌いだ」

    「・・・え?」

    「君の、懐かしそうに笑う顔が、嫌いなんだ」



     口を閉じて固まってしまった彼女の手からボトルが転がって俺の膝にぶつかった。鈍い感覚が、敏感になった体の中にほんの少しだけ響く。



    「俺に誰かを重ねているだろう」

    「そ、れは」

    「・・・誰を重ねている?」



     視線をそらそうとする顔を押さえて無理やり目と目を合わせる。本当はこのまま魔法をかけてしまえば、なんて思った自分が滑稽で惨めだ。そんな魔法を使わないと彼女から言葉さえ引き出せないのか。



    「・・・似てるの」

    「似てる・・・?」

    「好きだった人に、似てる」



     ごめんね、と謝る彼女の目じりは涙で濡れていた。



     違う、泣かせたかったわけじゃない。



    「私は、ジャミル先輩にも、みんなにも、元の世界を重ねて」

    「・・・泣かないでくれ」

    「ごめん」

    「泣かせたいわけじゃないんだ」



     手のひらで涙をぬぐう。



    「・・・俺を見てほしい」

    「え・・・」

    「その誰かじゃなくて、重ねないで、このままの俺を見てほしい」

    「ジャミ」

    「好きなんだ」



     月を背にした儚い彼女を抱きしめた。



    「君の一番になりたい」



    この夜がすべて魔法だったとして
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