殻いりたまご「──乃乃佳ちゃん!!」
キッチンから旦那様の叫び声が聞こえて、私はスリッパの左右を履き間違え足を縺れさせながら駆けつけた。
「どうしたの史郎、また牛乳が爆発した?」
「ホットミルクは突沸して以来レンジが怖いからやってないよ……! そうじゃなくて、見て、ほら」
片手で突き出されたのは、プラスチックの小さいボウル。勢いで中身が溢れそうになる。手前側を素早く持ち上げて、惨事を阻止した。実に危なっかしい。子供を見ている時よりも不安かもしれない……。
私の心配をよそにきらきらと目を輝かせる彼は、感慨深く拳を握った。
「僕、やっと──卵、割れました!!」
生卵は、傷ひとつなく──そして殻ひとつなく──ボウルの中に佇んでいる。
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