「カールよ、あまり私の部下を怖がらせてくれるな。また泣きつかれたぞ、今年も依頼達成件数が足りていないらしいな」
ふよふよと中に浮かぶ手のひら大の月らしきものをそっと押しのけて、工房の片隅に置かれた椅子に腰掛けている金髪の男が言う。
光を紡いだ長い黄金の髪と蕩けた金の瞳が印象的な、この世のものと思えぬほど美しい男だ。
星の海を模した工房は基本的に薄暗く、その中で金髪の男は自ら発光しているかのようにまばゆかった。
「はて、あなたの部下ともなれば、海千山千の手練れ。私のようなものになにが出来ましょう」
一瞬まぶし気に目を細めて、工房の主は空惚けた。金髪の男が微苦笑をこぼす。
「達成件数が足りないと、工房経営の資格が剥奪されるのは、卿も知っているだろう」
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