帰ってきた息子の気配に、他人の気配が混ざっていることに、ラインハルトは小さく目を細めた。無事に出会ったようである。息子から刀剣展に一緒に行かないかと誘われたときはどうしたものかと思ったが。
「父さんも来ればよかったのに。色々あって結構楽しかった」
入浴後のことだ。リビングで濡れた髪をラインハルトに乾かしてもらいながら蓮は言った。
「誘ってくれたのは嬉しいが、都合がつかなくてな。気になるものはあったか?」
問われて考え込んだ養子を眺めつつ、以前かの博物館を訪れたときのことを脳裏に呼び出す。ヴァルキュリアが没した地ということで一度見に行ったことがある。
「……うーん、ギロチンかな。思ってたより、大きくてさ」
いささか歯切れの悪い発言だった。言おうとしたことを一度飲み込んだ様子に、つい口元が緩む。分かりやすい子だ。
「そうか。さて、髪も乾いた。今日は疲れただろう。もう寝るといい」
ラインハルトがドライヤーをしまいながら言うと、養子はちいさく頷いた。
眠ったのを確かめてから、養子の部屋に入る。聖遺物の気配は濃いが、休眠状態にあるようだった。それを呼び覚ますためには一定の魔力がいるようだ。
カールはなんらかの手段を用いてそれを成し遂げたようだが、なにぶんここには私しかいない。
ラインハルトはおのれの指に傷をつけた。赤い血がぷくりとふくれあがり、滴り落ちる。養子の唇が赤く染まった。
「ううん、この体ではそう持たんか」
魔力を多少切り離した程度で薄れ始めたおのれの片手を眺めて、ラインハルトは苦笑を浮かべた。