夜 視線を感じながらもきりのいいところまで読み進めて本を閉じる。ベッドに備えつけたサイドテーブルに置いた後でスピンを挟み忘れたということに気づいたがもう遅い。
目線を真下に落とすと、蔵内の太腿を枕代わりにして王子が横たわっていた。スカイブルートパーズを思わせる目はじっと蔵内を捉えていた。
「やっとこっちを向いてくれた」
作戦室にいるときよりやや高い声。爽やかな見た目に反して低く落ち着いた声はいつも揺るぎないが、たまにこうして弾むことがある。ある時間だけ聞くことのできるこの甘い音が好きだった。
「誰かさんが邪魔してくれたおかげでな」
未だに腿を占領する王子の頭を撫でる。癖のある直毛に手櫛を通すと、蔵内の指からさらりと髪が逃げていく。繊細な感触を楽しんでいると、王子に手を取られた。
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