雛鳥の餌やりぐう、と腹の虫が鳴る。お腹を擦ったコーラルは腕時計を見た。そろそろ昼食の時間。今日はナナシが料理番だ。
あとどれぐらいだろう、とコーラルはキッチンに立つナナシの元へと向かう。ナナシはしゃがんでオーブンの中身を見ていた。
「今日は何を作ってるの?」
隣に立ったコーラルに声をかけられ、ナナシは顔を上げる。その顔は仕事中より幾分かやわらかい。休日仕様の顔だ。一緒に暮らすようになってから数年、随分と眉間のシワが浅くなったな、とコーラルは感慨深くなった。
「キッシュです」
「わぁ、楽しみだな。……僕もまた作ろうかなぁ」
「アンタこの前ちょっと焦がしてましたよね」
「ぅ……それは忘れてほしいな……」
からかい気味に口角を上げたナナシに、コーラルは目を逸らす。おいしかったですよ、と付け加えられ、ますます恥ずかしくなった。
3442