包帯「おまえって どこでなら死んでもいいの」
居酒屋の騒がしさを縫ってのろのろと届く酔っ払いの声
狭い机を挟んで対面に座っているのに 彼の声を、どうしてこんなに鈍く感じるのだろう。
どこでなら死んでもいい?
なんじゃそりゃ、と思うけれども 酩酊男相手に真面目に返すのもめんどくさい。
会計を持ってやると言ったらこれである。ちゃっかりしている。
アカギはハイボールを口にしながら すこし考えた。
どこで死ぬかなんて 自分で選べるものではない。
願わくば博奕で、と思っているが どうであろうか。己の勘はよく当たる。
この世は思い通りにならない。
「アンタが殺してくれるのなら、どこでも」
酔いから覚めても 彼はすべてを覚えていて、また自分の言葉にぐうぐう呻って後悔する姿が目に見える。なんであんなことを言ったんだ、ああ酔ったまま忘れられたら!と嘆く。
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