咬みついたら君は笑った 不意に目が覚めて、ラピスは寝袋の中で目を擦った。眠気もなくすっきりと起きられたのはラピスにしては珍しい。どれほど早めに就寝するようにしても朝には「もっと寝ていたい……」となるのがほとんどなのだ。
ぼんやりと見上げたテントの中は暗い。ラピスの両眼に高性能な暗視機能が備わっているから周囲が見えるだけでまだ闇に包まれている。テントの入口付近を見遣っても日光が差し込んできている様子はないのでまだ夜なのは間違いなさそうだった。こんな時間に目覚めたとなるとますます珍しい。
とりあえずラピスはもそもそと身動ぎして起き上がってみた。できるだけ物音を立てないように周囲を見回してみる。隣には人型に膨らんだピンク色の寝袋。更にその向こうには同じように膨らんだ青色の寝袋。どちらからも規則的な寝息が聞こえてくる。では、と逆側に目を向けてみればもぬけの殻となったシンプルな黒色の寝袋が転がっている。つまり今は本来そこで寝ているはずの人、ルーファスが周辺の見張りをしている時間帯ということだ。野営の際はラピスを除いた三人で寝ずの番を交代している。ラピスも協力したいと度々申し入れているもののこれまで一貫して却下されどおしである。子ども扱いされているようでラピスが常々不満に思っていることの一つだった。
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