尽きる酸素を愛して「ねぇねぇ、ルーファス。キス、ってどんな感じなの?」
あまりにも唐突に鼓膜を揺らした衝撃的な文字列に、ルーファスはまず「ふぅ」と大きく息を吐き出した。徐に読書用の眼鏡を外す動作に紛らせて眉間に生まれつつあった皺を指先で消し去る。次に読みかけの本をパタンと閉じて脇に置いた。栞を挟み忘れていたことには直後に気付く。その些細だが普段なら絶対にしないミスから己の動揺具合を測り、ルーファスはそっと虚空を見据えた。一、二、三。ゆっくりと三秒数えて事なきを得る。セルフコントロールはルーファスの得意とするところだ。問題はない。
そもそも、つい数分前までこの突飛な発言をしてきた少女――ラピスはルーファスの隣で眠りこけていた。アフタヌーンティーを旅の連れである四人で楽しんだ後、ナーディアとスウィンは街に向かい、ルーファスとラピスはもう少し紅茶と菓子をそれぞれ楽しむためにホテルの自室に戻った。その内に満腹になったラピスは目を擦り始め、遂には読書するルーファスの腕に凭れてうたた寝を始めてしまった。その時点で彼女をベッドまで運んでやる選択肢もあったものの腕にかかる重みが不快ではなかったのでルーファスはそのままにして今まで読書を続けていた。そうして30分ほどが経過した頃、短い昼寝を終えたラピスが伸びをしながら目覚めた気配をルーファスはしっかり把握していた。
それからもラピスは寝起きで暫くぼんやりしていた。漸くまともな思考が戻ってきたか、という頃になってふと発した言葉が先の物である。ルーファスとしてはあまりに不意を打たれた形だ。