龍の揺り籠 運転がうまいな。そう褒めると、きまってSAIは複雑な顔をする。
かつてのインドでは日本の交通マナーは通用しなかったと話では聞いたことがある。向こうでは貴様もスピード違反したのか、とたずねると、スピード違反なんて存在しないよ、と肩をすくめていた。つまりは無法地帯だからどれだけ速度を出しても問題ないということらしい。ルール無用の運転をしていた姿を見たかったと好奇心を抱いてしまうほど、SAIの運転は丁寧で滑らかだ。
とは言っても、SAIがドライバーを務めることは多くはない。雇っている運転手の仕事をむやみに奪うことはないし、そもそも龍水自身も運転はできるのだ。
だから、こうしてSAIが龍水を迎えに来たときくらいしか機会はない。
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