救済者のいない箱庭で 愛とは何か。
そう問われ、確りと答えられる者はそう居ないだろう。なにせ愛とは不確かで、非合理で、どうしようもないものだからだ。
しかし、故に貴いのだと言う者も居るだろう。それでも己の知る愛と言えばせいぜい、その在処の熱を知り、排他を知り、奪われまいと執着を呼び起こし、ひとを狂わせ、その激情がいつか己さえ殺す。誰かを殺してしまう。その暴力性こそ、その暴力性以外には知らなかった。
――自身を月の名で呼んだ、あの空のように青い瞳をしていたニンゲンの少女が抵抗も許されないまま“そうされた”ように。
『こうげつ、だいすきよ。だから、いいこにしていてね』
最後に見た彼女の顔は思い出せないし、あの言い付けを守って得たものなど皓月というキツネには、なにも存在しなかった。
1904