暮れぬ暁亡く、明けぬ黄昏無し 店内にかけられた壁掛け時計の短針が文字盤のⅪを指す。時間通りに閉店したはずのペットショップは昼白色の室内灯に照らされて、昼時と同じくらいのにぎやかさが戻っていた。
隅の方で大きな体を小さくして眠っていたアベルも渋々といった様子で身じろぎ、ゆっくりと足を伸ばす。固まった筋肉が少しばかり悲鳴を上げたのでいつも通り、時間をかけて丸めていたからだを伸ばせば室内灯に照らされた鱗が鈍く輝き、同じ色をした長い髪がしゃらりと流れてノンスキッドが敷き詰められた床の上に散らばった。
窓の外を見れば黒と藍を良く混ぜ合わせた空に黄銅鉱を擦って散らしたような星たちが瞬いている。アベルの海の色をした瞳はそんな星あかりなどまるで見えないように嫌悪を映し、涼やかな目元を微かに歪ませた。
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