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    くもり

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    くもり

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    愛憎交々犬猿CPです。
    お借りしました:スファレライト(@fake_fell)
      自   宅  :皓月
    (敬称略)

    #フェルテレ
    ferterae
    ##コウファレ

    救済者のいない箱庭で 愛とは何か。
     そう問われ、確りと答えられる者はそう居ないだろう。なにせ愛とは不確かで、非合理で、どうしようもないものだからだ。
     しかし、故に貴いのだと言う者も居るだろう。それでも己の知る愛と言えばせいぜい、その在処の熱を知り、排他を知り、奪われまいと執着を呼び起こし、ひとを狂わせ、その激情がいつか己さえ殺す。誰かを殺してしまう。その暴力性こそ、その暴力性以外には知らなかった。
     ――自身を月の名で呼んだ、あの空のように青い瞳をしていたニンゲンの少女が抵抗も許されないまま“そうされた”ように。
    『こうげつ、だいすきよ。だから、いいこにしていてね』
     最後に見た彼女の顔は思い出せないし、あの言い付けを守って得たものなど皓月というキツネには、なにも存在しなかった。
     ただひとつ、彼女から惜しみなく与えられた愛への懐疑心以外には、なにもかも。

     ◆

     店内の随所に設置されているテーブルセットの内のひとつに座り、にわかに賑やかさを取り戻したいつもの店内のいとなみをBGMに微睡む意識に任せて気分よくうつらうつらと舟を漕いでいたところに冷や水を被せられたように飛び起きる。
     跳び起きた拍子に机の裏側に強かに膝を打ち付けつつ、視線だけ動かせばまだ閉店時間からさほど時間は経っていないようで、周囲の誰も皓月の様子など意にも介していないようだった。
     その事に柄にもなく、ほっと安堵の息を吐いた。
    「……なーんで今更、あのコのことなんぞ夢に見たんかねェ」
     たのしいたのしい現実に追い戻されてしまっては寝直す気分にもなれず、ことりと緩慢に首を捻る。捻ったついでに頬杖をついて足を組み、尾をぷらぷらと行儀悪く揺らした。
     特にこれといって手入れをしているわけではないふわふわの尻尾は昼白色の室内灯の光を浴びては更に白くかがやき、血の気の薄い肌は比例するように生白さがきわだつ。きらきらと輝く白毛をちらりと横目で一瞥だけをして、誰か暇そうな知り合いでもいないかと
    「なーんぞ、人の集まり方が偏っとるな……この辺にあるブースってなんやったやろか……ってアレ、スファレちゃんか」
     みがかれたルビーのように赤い瞳が見つめる先には、“オモチャ”に囲まれた“玩具”かれの姿があった。
     皓月の座っているところから見ると漆黒と黄金の二色の長髪を一つにまとめた後ろ姿しか確認できなかったが、皓月の知人であの髪の色をしているのはスファレライトというダイオウサソリただ一人だけだった。
     そういえば、とにもかくにも彼はよく目立つ方だったかと思い出して、彼は普段どう遊んでいるのかはあまり見た事がなかったなと取り留めのない思考が浮かんでは消えていく。
     別に、皓月には口に出すほどの興味はなかった。他人がどこでなにをしようと関係がないというのが皓月のスタンスであったし、自身も遊びに口を出される事を嫌う性質である。
     皓月は口が良く回る方であるし、他人をしょっちゅう煽って遊んではいるが他人の“たのしい”にわざわざ水を差す性質でもない。いわんや、それが“お気に入り”であるならば尚更だった。
     しかし暇であるのは確かなので、他にやる事が出来るか誰かが面白そうな事を始めるまでは観察でもして、次に遊ぶ時にでも使えるからかいの種でも探してやろうと耳を立てる。
    「――ええ。ええ。我が、救ってさしあげましょう」
     皓月の大きな耳が微かに跳ねた。
     多少距離があり、店内で過ごす多くの同類りんじんたちの喧噪に紛れたその声の中で、よく煮詰めた砂糖液のようなとろりとした甘い声だけはいやにはっきりと聞き取れた。
     漆黒と黄金の双色が美しく混ざるゆたかな長髪が流れるその後ろ姿をサングラスの黒いレンズ越しに見つめて、吐息が微かにこぼれる。時折見える精巧なつくりもののような横顔から読み取れる感情はといえば数えて足りぬほどの愉悦と優越、そして少しばかりの名状しがたい何かだけ。それ以外に彼のうつくしいかんばせを彩るものなど、存在しない。
     その横顔を視認してふと、見覚えにしては弱く、知らないと言い切るには違和感のある何かが一瞬、脳裏をかすめる。同時に、漠然とした欠落感が皓月の心臓に巣食った。
    「スーファレちゃん♡なんや、ヒマそーやねェ?」
     おもむろに席を立ち、背後からにゅっと顔を出す。
     わざとらしく耳元で名前をちゃん付けで囁いたせいか、当のスファレライトはといえばキュウリを背後に置かれたネコのような反応をギリギリで堪えたような、ひっくり返ったゴキブリの裏側を直視してしまった虫嫌いの人間のような顔をしていた。
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