うたう深海魚 不意に腕が、うんともすんとも動かなくなる。呼吸がどうにもままならなくなる。両の脚が、たまらなく軋み疼き、とても立ってなどいられなくなる。突然、目で見るということが解らなくなる。手足と呼吸は月に一度有るか無いか程度だが、目に関しては「油断すればいつでも」という有様。
五百友魚の体は、どうにも不便な出来栄えであった。
それは生まれてこの方の悩み事で、それこそ幼少期には両親が随分と苦心したらしい。しかし人間とは随分とたくましいもので、当の本人は小学生の四年にもなればすっかり体質に慣れ親しみ、不便は感じつつも「ほどほど」に付き合うことをおぼえたのだった。
動かんものは仕方がない。軋むことも、解らなくなることだって。それは友魚が足掻いてどうこうなる話でもなかったし、その頃には大概の薬を試して無駄だということも判明していた。それなりに不便もしていたが、どうしょうもないほどに致命的でもなかった。
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