君想う故に、我在り 胸のスカーフの硬い結び目を弄びながら、桜を見ていた。卒業証書の入った筒をひとまず紙袋にいれて、息をつく。卒業式は長かった。
「ちょっと待ち合わせがあるから」
校門でひとしきり写真を撮られた後、私は母にそう告げて、独り校舎へ戻った。途中すれ違うクラスメートは皆泣いていたが、私の涙腺はこれからの事に緊張して、カラカラに枯れていた。階段を早足で上がって、古びた木造校舎の建て付けの悪い引き戸を開ける。
私たちの部室。しんとした薄暗い空間に、描きかけのキャンパスが不規則に並んでいる。集中すれば気にならなくなる油絵の具の独特のにおい。今は少し強く感じる。
「あ、部長。おつかれさまです」
部活は当然休みだというのに、彼女は居た。
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