窒息「大丈夫。できなくていいよ」
その言葉はいつも、俺から緩慢に自由を奪っていく。
例えるなら、指のひとつひとつを捥がれていくような無力感。
例えるなら、水の中を泳ぐような閉塞感。
例えるなら、幾筋も伸びる枝葉を剪定していくような気安さで。
貴方のためにと、心からの善意と愛情を向けながら。
なにも気に留めなかったそれが、異常であることを知った時、俺はその言葉の裏に、本人たちすら気付いていない真意に、気付いてしまった。
「大丈夫よ、朔(はじめ)。できなくていいからね」
何かひとつ、上手くいかないことがあると、母は優しく笑ってくれた。
──貴方にできると思っていない。
「こんなこと、知らなくていいんだよ」
わからない言葉の意味を父に聞いた。父は笑顔で頭を撫でる。
1227