アレキサンドライトの夜
【Ⅱ】未必の累
《1章》始まりの言の葉―はじまりのことのは―
未必とは「必ずしもそうならない」という意味を持つ言葉らしい。
初めてそうリンクが認知したのは、ゼルダ姫の探していた蔵書を高棚より取ろうとした時だった。出会ったことのない言葉にリンクは本を手渡す前に、手早く辞書を引いた。
俺の知らない言葉がまだあるんだな。
リンクは素直にそう思った。白く細い指先に探し物の本を手渡す。鈴の声がお礼の言葉を象る。一瞬にして囚われて、ハッと我に返った。時間にすれば刹那。姫の己より澄んだ青に、長く伏せられた睫毛に魅入られていた。手を離すのが僅かに遅れ、指先に姫の温かな指先が触れた。
「あ」
短い声が上がって、本は向き合った二人の間に落ちた。
「姫すみません……」
「いいえ、私が受け取り損ねただけですから」
同時に膝を折って、本に手を伸ばす。開いた本のページ。そこにはまた一つ印象的な言葉が載っていた。リンクの留まった視線に気づいて、先に本を拾い上げたゼルダが口を開いた。
「累……ですよ。好ましくない関係……という意味の言葉です」
尋ねる意図はなかったが、ゼルダの言葉をリンクは頷きで受けた。知りたいのだと思われたのだろう。
「ここはもう大丈夫です。他の者の手伝いをして下さい」
リンクは立ち上がると、一礼して図書館を後にした。他の者にする手伝いなどない。姫付きの騎士。それが己の立ち位置であり、唯一指示できる存在は姫だけなのだから、体よく避けられたのだと、リンクにも分かる。
毒蛇の一件から、主従の間には未だ薄く靄が掛かっていた。触れ合った指先がジンと痺れる。よくある出来事。姫にとっても、一般人にとっても些事であることを、身体は特別の反応を示してしまう。
重々しい扉が閉じると、リンクは深く息を吐いた。
夜になって、リンクはハッと目を覚ました。寝乱れたシーツ越しに闇色の窓が見える。
「……なにをしてるんだ、俺は」
しばらく城に籠もるゼルダの意向で、リンクは明日から訓練しかすることがない。図書館を出てからはがむしゃらに剣を振った。夕方にもならぬ時刻に他の近衛兵に場所を譲れば、あっという間に手持ちぶさたになった。誰かの手伝いをする気にもならず、早々にベッドに横になっていたが、そのまま眠ってしまったらしい。窓を見れば、まだ月は高い。
フードを真深く被ると、マスターソードではなく、刀身の短い訓練用を持ち出した。姫付きの近衛兵がいくら休暇中といえど、城を出たと知られれば姫への陰口の種にされかねない。それだけは避けたかった。
王家が管理している狩り場なら、そうそう人は入ってこない。リンクは口元を隠すマスクをして、闇に歩み出たのだった。
下草に夜露の降りた森林はあの日を思わせる寒々とした空気が漂っていた。
大きく葉を広げた木々の間から、わずかに月光が差し込んでいる。見上げれば満月。それも時折通り過ぎる分厚い雲によって遮られ、たいまつひとつ持たぬリンクを闇に溶かし込むには最適の空模様だった。
側を小川が流れ、小さく開いた場所にリンクは今夜の居場所を見つけた。せせらぎの音は剣を薙ぐ音を消してくれる。頭の中に巣くう自分でも理解しがたい名前もなき感情を、吹き飛ばすべく剣を振るうのには最適な場所のように思えた。
漆黒の中、一心不乱に剣を振り下ろす。
己が吐く呼吸音だけが、響く世界。
ふいにリンクは動きを止めた。
「誰か……来る」
荒い息をゆっくりと整えつつ、忍び足で大樹の陰に身を潜めた。ここは王家の森。来るとすれば王家由来の者か森の管理者。そう深く入ってはいない分、近くの村の者という可能性もある。夜盗であればそっと捕らえるのが王家に仕える者の使命。
リンクは剣を月光から隠して懐深く構えた。
足音は近づく。なんの警戒もしていないような足運びに、リンクは闇に目を細めた。葉陰に見え隠れするのは粉色のフード。人目を避けるには目立ち過ぎる色合いに、研ぎ澄ましていた感覚を緩めた。
「こんな時間に何用だろう」
分厚いフード越しの体つきと歩みの確かさから若い女性だと分かる。時間と場所を考えれば近隣の者かも知れない。夜盗でなくて安心したが、姿を見られてよいものでもない。通り過ぎるのを待とうと決めた時、女性は急にうずくまった。
足でも痛めたのかと視線を改めて向けた時、彼女が顔を上げた。雲が切れる。月光が差し込んで、白い頬を照らした。
「まさか……」
思わず口をついて出そうになった言葉を飲み込んで、リンクはぐっと柄を握り締めた。本来、こんな場所にいるべきではない人が確かにそこに立っていた。
*…*…*
ゼルダがこの場所を選んだのは、昔父と来たことがあったからだ。生い茂る葉陰の向こうに見える城の灯りは、もうあんなにも遠い。
「小川だわ」
耳に届いたせせらぎの音へとつま先を向けた。鬱蒼とした木々が川の流れに沿って、散歩道のように細い空間を作っている。おそらく村人なども通る道の一部なのだろう。今はもう日が落ちてずいぶん経つ。手にしたランタンの明かりに照らされた下草の夜露が、キラキラと輝いて見えた。
侍女が使うフードを被り、簡単に結い上げただけの髪と顔を隠してここまで来たけれど、もう腰を落ち着けてもいいかも知れない。どこか座るところはないかと、ゼルダは辺りを見回した。
切り株が目に入った。その切り口は丸みを帯びている。ずいぶん前に間伐されたものらしい。座るのにはちょうど良さそうだ。
城にはいつも誰かの目がある。
厄災を打ち払う力に目覚めぬ悩みなら、思いに耽るのは自室でも図書館でもいい。けれど、今ゼルダの心の中で渦巻いているのは、別の事柄だった。それはとても私的なこと。それが起因となる憂いを他の者に見られたくなかった。だから、そっと城を抜け出てきたのだから。
切り株へと歩み出だせば、せせらぎの音がより近く聞こえる。
いい音……。
心地よい水音に意識を奪われた瞬間、ガクンと視界が大きく上下した。ズキンと足首に痛みを覚えた。ゼルダは足を止め、膝を折った。足首に触れると熱を持ち始めている。少しひねったようだった。座った方がいい。ゼルダは視線を上向けた。
その位置はちょうど空を覆っていた枝葉が途切れていて、曇天の隙間から覗く月の光が目に眩しい。澄んだ光は流れる水に反射して、美しく輝いている。ゼルダはホゥと息を吐いた。
自然はいつも傍にいて、心を癒してくれる。月光も輝く水面も風に揺れる葉も、みんな見る者に分け隔て無く優しい。
美しい景色と音色に頬を緩ませた時、ゼルダは下草を踏む音を聞いた気がした。
誰か、いる?
背筋はピンと伸び、その張り詰めた皮膚の上を緊張が走り抜ける。さっきまで感じなかった気配。不思議な声を聞いたという母の血を継がなかった自分に感じられるのは人のそれだけ。身を強ばらせていると、人影は柔らかく腰を折った。
「足は大丈夫ですか」
声は確かに目の前で屈み込んだ人物から発せられたものだった。それはいつもより幾分か低いけれど聞き覚えのある声。ゼルダは思わず叫びそうになったが、辛うじて声を飲み込んだ。一人でこんな場所に来てしまったことを気づかれたくはなかった。大丈夫と首を横に振ると、代わりに手が差し出された。足を痛めたのを見られていたに違いない。一人でできると振り払う仕草をしてみたが、眼前の手はゼルダの手が重なるのを待つように留まったままだった。
「森の外まで送りましょう」
予想以外の言葉にゼルダは戸惑った。このまま送られる訳にはいかない。強く首を横に振った。
目の前にいるのはリンクだわ。
二度聞いた声でゼルダははっきりと確信したからだ。声を出せば今度こそわかってしまうだろう。ゼルダはランタンを強く握るとゆっくりと後後退った。その拍子、ゼルダの喉はヒュッと音を立てた。
「っ!」
下草に隠れた川辺の縁。擦り下げた足が滑り落ちたのだ。
とっさに出した指先には冷たい水の感触。明かりが水面に揺れる。すぐにフードの裾と靴に水が染みこんで来るのが分かった。驚き水面に向いた視界の中に、手のひらが差し出された。それはリンクの手だった。
「大丈夫ですか」
手助けするつもりなのだと分かった瞬間、ゼルダの胸にチクリと小さな痛みが走った。
リンクは誰にでも優しいのですね。
人として、英傑として、リンクはいつでも正当な態度を取っている。川に足を落とした女性を助ける。それは騎士として当然の行為。なのに、胸は奇妙な痛みをゼルダに感じさせた。
伸ばされたままの手のひらをゼルダは押しやったが、重心が変わったことで体は傾いてしまう。慌てて踏ん張ろうとした足首にさきほどの痛みが走った。背中は後方へと仰け反り重力に引かれて沈んでいく。
「あっ」
反射的に声が出た。次の瞬間、身体は何かに支えられていた。そのままするりと重力から解き放たれ、川から掬い上げられた。ランタンは彼の手に。膝裏と背中に回った逞しい腕、城の者が身につけるフードの胸留めが目に飛び込んでくる。胸板に押しつけられた耳に、心臓が激しく打つ音が届いた。
いつも冷静で寡黙なリンクなのにこんなにも心臓がドキドキしている。ゼルダの胸にモヤリとした何かが生まれた。蛇に咬まれた時にも彼に抱き上げられたが、彼の心臓は規則正しい音を立てていた。
女性に密着されてドキドキする……リンクにもそんな一面があるのですね。
男性なら当たり前のこと。そう言い切るにはゼルダの中のリンクの存在はもう、大きくなり過ぎていた。
「降ろします」
リンクはそう告げて、ふわりとゼルダをさっき目にした切り株へと座らせてくれた。
ふいと彼が横を向く。フードから覗くその表情に変化はない。短い悲鳴では気づかなかったのかも知れない。フードを深くかぶっているし髪は結い上げている。
俯いたまま頭を下げれば「いいえ」と当たり障りのない声が返った。彼だって何か目的があってこの場にいたのだろう。静かに座っていればここから立ち去るはずだ。でなければ自分が立ち去ればいい。物思いに耽るのにここである必要はないのだから。
ゼルダは先ほど痛めた足の具合を確認することにした。すっかり濡れて重くなったブーツを脱いだ。足首は少し腫れているようだったが、歩いて帰れそうだ。その視界の端で、人影が遠ざかっていくのを感じた。女性が素足になるのを見るのは忍びないとでも思ったのか、深い緑のフードは背を向けていた。
……リンク。
この人は優しい人だ。私が一番よく知っている。わがままを言って振り回すばかりの私に変わらない心配をしてくれる。蛇に咬まれた時も、一番に身を案じてくれた。だからこそ、これ以上不要に私から近づいてはいけない。分かっているのにうまくいかない。
ゼルダは長く息を吐いた。このことこそが自分の心の中に貼り付いていたものなのだと分かったからだ。吐き出すことも飲み込むことも出来ずに、喉に掛かった棘のように何かする度にチクりと胸を痛ませる迷い。
リンクとの距離を測りかねている自分に気づいた時、ゼルダの中に交わらない二つの答えが生まれた。
どちらを選ぶのが正しいのか、私が一番知っているのに。
ゼルダは唇を固く結ぶとブーツを手に取った。水が滴るほど濡れている。
女性になら誰にでも親切にするのが彼ならば、自分だって例外ではない。分かっている。そんなことで一喜一憂するような立場でも、時期でもないこともゼルダはよく理解していた。彼を想うと胸が苦しくて眠れない。昼間もリンクが傍にいることに勝手にドキドキして、身勝手な理由で彼の任を外させてしまった。冷静になれない自分にゼルダは顔をますます俯かせた。
図書館でリンクに問われた言葉がふと頭をよぎる。
もしも。
視線の先、足の甲がランタンの明かりに照らされている。濡れたそこは酷く青白く見えた。
*…*…*
やはり粉色のフードを被った女性はゼルダだった。
足を痛めた様子に心配で立ち去ることもできず、気づかれるのを覚悟でリンクは声を掛けた。だが、ゼルダは気づいていないように、リンクの申し出を身振りで断った。
断られること自体は想定していた。姫は自分がどんな立場にいるかよく理解されている。こんな素性も分からぬ者に身を委ねたりはしない。姫の声は国民の多くが知っているのだから、無言を貫いているのも身分がばれない為だろう。
分かっていたことなのに、なぜかリンクの心は晴れなかった。安堵と同時に、何か寂しさのようなものが肩の上に乗っているような感覚。
気づいて欲しかったのか、俺は。
腹の奥の欲求に苦々しく奥歯を噛んだ。
川辺を後ずさり、この場を去ろうとする姫に胸がわずかに痛む。姫は戻られた方がいい。自分もここに一人になる為に来たのだ。踵を返そうとした時、姫の身体が揺らぐのを見た。
「っ!」
反射的に飛び出していた。細腰を支え、素早く抱き上げればちいさく喘ぐ息が青白い唇から漏れる。顔が分からないようにするには姫の顔を胸元に抱え込むしかなく、準備不足の心臓は素直に鼓動を速めてしまった。姫の傍に仕えている時は常に心を平静に保つよう意識しているというのに。
身を固くしたゼルダを切り株に座らせた。
足を気にする様子のゼルダに目を向けると、ブーツに手が掛かるところだった。リンクはぎょっとして慌てて背を向けた。耳に届く音に姫の仕草が頭に浮かぶ。一瞬振り向いた視線の先に、月光に輝く濡れた足先が見えた。
心臓がドキンと跳ね上がった。動揺をぐっと胸に拳を押しつけて誤魔化す。頃合いをみて、リンクは背を向けたまま声を掛けた。
「送ります」
そう言うのが適切なのか、もうリンクには分からない。けれど、この場にこのまま二人いることが良くないという感覚だけはあった。
姫は目の前の男が何者であるか気づいていない。気づかれる前に離れるべきだと。
もうこれでここにいてはいけないことは分かったはずだ。だから、きっと姫はもうこの場を去る。そうしたら、無事に城に着くまで見守ろう。城壁に入るのを見届けてから、また鍛錬をすればいい。夜はまだ始まったばかりなのだから。
返事の代わりに姫は俯いたまま首を横に振った。
「城下町まではかなりあります。大丈夫ですか?」
三度目の問いにも姫はがんとして首を縦に振らない。リンクは困ったなと思いつつも、どこかで安堵していた。
ここにいるのは自分だ。だが、ゼルダにとって目の前にいる男はただ偶然出会った男であって、姫を護る役目を負う近衛兵ではないのだ。姫はどこまで分かっているだろう。男と二人きりになることがどんなに危険な行為なのかを。
そこまで考えて、リンクはふっと可笑しくなった。
「……っ」
ゼルダが息を飲んで首を傾げた。どうやら意図せず笑いが漏れてしまったらしい。
どの口が言っているんだ。俺だって男だろ。
二人きりでいても姫が安心できるのは自分が姫付きの近衛兵であるからだ。それは決して揺らがせてはならない倫理。リンクは唇を引き結んだ。
「いえ。ではお気をつけて。できるならば、お早く灯りのある場所まで」
返事の代わりに微笑んだ姫にリンクは安堵して、足を引きながら歩き出すのを見送る。
姫の中で俺は今、見知らぬ男。
身体は勝手に歩き出した姫を追い、二の腕に触れていた。
「名を教えて下さい」
突然の行為にゼルダの視線は無意識に上がり、リンクのそれとぶつかった。月明かりに照らされた互いの顔。すぐに月は雲に隠れたが、分からないはずはない。こんなにも至近距離であえて声も変えず、真正面から目をあわせているのだ。
「いえ。この辺りの夜の一人歩きは危険です。もうここへは来ない方がいい」
そう告げて、リンクは背を向けた。無意識に放ってしまった言葉にリンク自身戸惑った。ゼルダも同じだろう。戸惑った息づかいが聞こえる。
これでいい。リンクは自分を納得させた。姫は目の前の男の正体に気づくべきだ。あえて知らぬふりを通すことで、次に会った時にお互い素知らぬふりができる。息を吸うと、リンクは姫の返事を待たずに強い語調で言葉を続けた。
「危険なのは魔物ばかりとは限らない。もし、次にここで会ったらどうなっても知りませんよ」
互いの認知を意識した上での警告。ここで会ったのが自分ではなく他の男だったなら――。
想像するだに背筋を恐ろしく冷たいものが走り抜ける。これに懲りて夜の一人歩きを止めてくれればいい。
リンクが一歩踏み出した時、背後からゼルダの肺が酸素を深く取り込む音が聞こえた。
「どうなる……というのですか」
リンクは耳を疑った。
姫の言葉は問いではなくまるで挑発。驚いてわずかに振り向けば、目尻に力の入った視線がリンクを射貫く。
「私は怖くありません」
微塵も迷いを感じさせない瞳がまっすぐにリンクを見ていた。頭のてっぺんに火花が弾ける。細い手首を掴むと、そのまま太い幹に押しつけた。
「危機感が無いにもほどがある! 貴女にも無事の帰宅を待つ者がいるはず。これ以上のことをされたくなかったら、こんな夜更けにこのような場所になど近づかぬことです」
見開かれた翡翠の瞳にははっきりと驚きの色が浮かんでいる。リンクは畳みかけるように言葉を重ねた。
「今宵は満月。魔物も人も狂わせる真円の月。先ほどの言葉も、ここに貴女が来たのもすべては月のせい。俺は幻を見ただけ」
忘れるから帰れ。暗喩に気づかぬ姫ではない。しばしの間の後、ずっとリンクを凝視していた瞳がわずかに揺れた。
「……分かりました」
ゆっくりと伏せられていく整った睫毛。押しつけた手首を緩めると、リンクは一歩後退った。
これで何もなかったことにできる。ここで二人は出会わなかったし、これからも出会うことはない。そう思うと肺は長い息を吐いた。その安堵の息にはわずかに暗然の感情が絡む。
「――ア」
姫の唇が何かを告げる。動きを止めると、もう一度唇は言葉を象る。
「私の名はルデアです。あなたの名を教えて下さい」
「なっ」
姫の言葉に衝撃を受けた頭は正解を導き出せない。
なんと答えるのが正しいのか。もう互いにハイラルの姫とその姫付きの騎士であると分かったはずだ。けれど姫の告げた名は知らぬ女の名。
「な、名前など」
「知りたいのです」
姫は真顔のまま食い下がる。リンクはわずかにたじろいだ。この瞳を知っている。決して曲げないまっすぐな目。リンクは観念した。
「俺は……。俺の名はクイル」
「忠告をありがとうクイル。今日は帰ります」
するりと身を翻し、見知らぬ名を告げた姫が去って行く。リンクはただそれを見送った。ランタンの明かりが木々に紛れ、再び厚い雲が満月を隠すまで。