暗くて眩くて、無数にあるのに一つも手の届かない物 「アナタにとって、この世界は『無い物』ばかりのつまらない世界なのでしょうね」
柔らかな風は若い草原を揺らしながら、ゆるりと頬を撫でて軽やかに去ってゆく。あたたかな日差しが木の葉の隙間を縫って顔に降り注ぐ。
両手脚を草の上にひろげ、気持ちよく食休みをしていたショウに、そんな灰色の言葉を投げたのは、行く先が同じだからと道連れになったウォロだ。
「なんでそう思うんですか?」
幹に背をもたれて色のない顔でこちらを見下ろすウォロと目を合わせると、すぐに逸らされた目線は行き先なく遠くを仰いでいるようだった。
「時をたどればあなたの生きた世界につながるとしても、あなたの常識は今のこことは随分異なりますから、ずっと文明は進歩していて不便なく暮らしていたのだろうと想像できます」
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