ぼくの宝石は食いしんぼ ———『味わう、ということは、どんなささやかな事でも宝石に変えてしまう不思議な体験です』。
「ノーツさん。そろそろかぼちゃが煮えたのでお鍋下げますね」
「あっ、ありがとうございます。火傷に気を付けてください」
「はい。……ふふ、ノーツさんは心配性ですね」
今日は3月14日。世間でいうホワイトデーにあたる日だ。少しずつ長くなってきた日が暮れようかという頃、僕とグラウさんは二人でキッチンに立っていた。
片手鍋を手に、朗らかに笑いかけるグラウさん。揃いのエプロンを身につけた愛しい彼女を横目に、僕はこうなるまでの経緯を思い返していた。
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「グラウさん、明日の夜は予定を空けておいてください」
「? はい、わかりました。何かあるんですか?」
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