ミザワ博士とリー所長 一枚の写真がある。先日行われた政府表彰式典の際、出席した研究所の全員で撮った記念写真だ。真ん中に浮かんでいる大きな花束、いや、大きな花束を抱えた、金髪の小柄な女性がリー所長である。この国家を挙げた一大プロジェクトの指揮を先頭で取り、見事成果を示した。彼女こそ千年に一度の逸材、天才科学者である、と、国営メディアもこぞって書き立てている。そんな乱痴気騒ぎがお気に召さないのかもしれない。この孤高の科学者は眉を顰め、まるで花束に似合わない、ニコチン中毒の禁煙者みたいな不機嫌な面をぶら下げて写真に収まっている。
そこから数メートルほど離れた二列目、右端。大柄な男性が背を丸めるようにして、遠慮がちにちょこんと映り込んでいる。顔はにこにこと優しそうで、敵意の欠片も無く、見るもの全員に安心感を与えるような印象があった。彼はミザワ博士と言う。特技は美味しいコーヒーを淹れること。
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