アウリオンより はじまりのひと言を憶えていることは果たして幸福なのだろうか?
遡る、遡る。息を止めて記憶にひたすら潜る。
『ありがとう、キサラー! 助かったよ』
『いつも思うけどさーどんだけ暇なんだよお前〜』
『無理強いはしないさ、アンタの人生だろ?』
『学校って友だちがたくさんできて楽しいところだよ。興味ない?』
『ここを家だと思ってくれていいからね』
『こんな時間にひとりで……お母さんとお父さんは?』
『ここですこし待っていてくれ』
それは何より見飽きた行き止まり。俺という記憶と人生の始発点。それ以上前のことはなにひとつない。道中ならもう思い出せる。
『ありがとう。でも学校とかはいい。俺はやることがあるから』
それを聞いた大人の悲しそうな顔でさえも、俺の中にあるものは、どれも俺を傷つけなかった。その幸運に報いたいと思ったから、俺は人助けを片手間に始めた。
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