これ以上の幸せはあるよ 春の風が吹く。桜の花びらがいくつもそれに攫われまたひとつ大寿の目の前をひらひらと舞い落ちて行った。
「ご卒業おめでとうござます」
壇上の男が話す言葉が左から右へと流れる。正直こんな茶番に出るつもりは無かったし、言ってしまえば卒業するまでここにいるつもりすらなかった。しかしアイツが言ったのだ。
『卒業はしといた方がいんじゃない?』
口の端に生クリームをつけながら三ツ谷隆は眠そうな目をにこりと垂れさせてそう言った。その一言がどうしてか胸に残り、結局、最低出席日数を満たし、テストはほぼ1位をとって卒業してやった。そして昨日も『大寿くん卒業式明日だよね? 終わったらうちで飯でもどう?俺大寿くんの高校迎えいくよ』なんて決定事項のように喋る三ツ谷に「卒業式に行く気が無い」とは言えずそのうえ念を押す様に『楽しみだなぁ~大寿くんの制服姿』なんてふざけた事をぬかされたせいで元々行く気が無かった卒業式にまで出る事になってしまった。
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