陽光のどけき春にして、さりとて吹く風の未だ冷たい三月の、氷河高校野球部寮も春季休暇を迎えていた。
春のセンバツ出場を惜しくも逃した同校野球部は、第三学期を修了すると新学期までの僅かな余暇を家族とともに過ごすべく殆どの部員が三々五々に帰省してゆき、寮舎内は閑散と静まり返っていた。
「巻田クンは帰らへんの?」
氷河高校野球部の二年生エース投手・桐島秋斗は、およそ高校球児には似つかわしくない、さらさらと長い前髪を指先で弄びながら、同じく投手の一年生・巻田広伸が仰向けに体を預けるベッドの縁に腰掛けていた。
「春休み短すぎンだろ。いいよ別に」
二段ベッドの下段で天井を眺めていた巻田はぶっきらぼうに答えた。
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