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    キツキトウ

    描いたり、書いたりしてる人。
    「人外・異種恋愛・一般向け・アンリアル&ファンタジー・NL/BL/GL・R-18&G」等々。創作中心で活動し、「×」の関係も「+」の関係もかく。ジャンルもごちゃ。「描きたい欲・書きたい欲・作りたい欲」を消化しているだけ。

    パスかけは基本的に閲覧注意なのでお気を付けを。サイト内・リンク先含め、転載・使用等禁止。その他創作に関する注意文は「作品について」をご覧ください。
    創作の詳細や世界観などの設定まとめは「棲んでいる家」内の「うちの子メモ箱」にまとめています。

    寄り道感覚でお楽しみください。

    ● ● ●

    棲んでいる家:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou

    作品について:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou/free/96135

    絵文字箱:https://wavebox.me/wave/buon6e9zm8rkp50c/

    Passhint :黒

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    キツキトウ

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    2021/7/12

    書きもの/「Wisteria」
    書き溜まっていたものを、ポイピクに縦書き小説機能が追加されたので置いていきます。ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいかもしれません。そしてもし誤字脱字がありましたら生暖かい目で見守っていただけると幸いです……。

    ※創作BL・異類婚姻譚・人外×人・R-18・異種姦・何でも許せる人向け。

    #創作
    creation
    #小説
    novel
    #創作BL
    creationOfBl
    #BL
    #異類婚姻譚
    marriageOfADifferentKind
    ##Novel

    Wisteria(3)「Wisteria」について【項目 WisteriaⅠ】「熱発に染まる」閑話1 「仕返し」閑話2 「風邪」「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
    世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。

    R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
    又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。

    ※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
    【項目 WisteriaⅠ】
    「熱発に染まる」
    閑話1 「仕返し」
    閑話2 「風邪」



    「熱発に染まる」

     ここまで手を出す気は無かったんだがな……。
     贄として来たという少年に、最初は退屈凌ぎくらいにはなるだろうと住む場所を与えた。魔がさした……というと恐らく違うだろう。
     教えればよく覚え、器用にものを作る。何か失敗すると気を落とし、上手くいくと嬉しそうに笑う。庭を歩けば楽しそうに、何か獣が居れば興味深そうに眺め、本を読めば百面相する。過ごしてきた環境のせいなのか、信仰に触れる事が無かったのだろう。行業しく「様」と付けて呼ばないのも、些細な事だが堅苦しくなく居心地が良かった。そうしている内に、己にとっては僅かばかりの時間が過ぎた。だが、人にとっては貴重な時間なのだろう。此処へ来た当初よりも、藤の顔色は明るくなっていた。
     事あるごとにころころと変わるその表情に惹かれ、その姿を瞳に映せば愛らしいと思い、共に過ごす日々は思いのほか楽しかった。体の奥底から何かが疼くと、どうしようもなく〝食べたくて〟仕方なくなる。その衝動から抜け出せなくなった理由など疾うに気づいていた。


     贄としての関係性などどうでもいい。
     だが〝贄として此処に在ろうとしている藤〟を拒絶して、〝死を願う藤〟との関係へと再び引き戻されるのはどうしても避けたかった。
     死を願ったその先など見たくはない。そして僅かでも藤が傍から離れない理由があるならそれにも縋る。今まで会った人間達との間にはなかったその関係に。

     また私は「離れる事」を恐れているのだ。

     かつての友の様に、退屈をしのぐ単なる話し相手になる筈が、此処まで目を離せない相手になるとは予想にもしていなかった。〝心を折り込まれたあの時〟なのか、それとも〝藤の瞳に星が流れたあの日〟なのか。すでに私の心は藤へと向いていた。


     大きな蛇は、自身を人の姿へと変えると目を細め、ふっと息をつく。服が乱れ、自分が与えた初めての所業に疲れ果て、今は傍らで静かに寝息を立てている藤の頬をそっと撫でた。
     自分はもう、この少年を手放す気はないだろう。どうしたって愛しいと思ってしまう。

     藤へと身を捧げ、触れひそめいてはこの先の縁まで結ばれたかったのだ。


              ❖     ❖     ❖


     藤がこの場所に来てから何カ月が経っただろうか。
     あれだけ色濃く紅葉していた木々の葉は、すっかり地面へと落ち、今は寒そうな木々達が庭に整列していた。隅にひっそりと佇む藪椿の木も、そろそろ目を引く様な紅をつけだすだろう。遠くへ出る事が出来ない藤にとって、時間が経つごとに表情が変わるこの庭は、この場所で新しく出来た数ある楽しみの中の一つだ。
     贄として来てから麓には戻ってはいない。けれど藤が心配を懐くような人達は元居た場所には居ないのだから、此処に残った事に対して何も後悔は無い。この場所から出れない筈なのに、むしろ前よりもずっと自由だし、誰かに意味もなく殴られる事も無い。沢山の事を知って、毎日美味しいものを誰かと分け合える。とても心地が良い時間が流れていた。
    「……今日は何を作ろうかな」
     あと数時間もすれば夕時だ。何時も通り食事の下拵えをしようと思うが、何を作るのかが決まらない。
    「んー……」
     考え込んでいると窓の隙間から、外の冷たい空気が吹き、忍び込んでくる。部屋との温度差が余計にそれを冷たく感じさせた。
    (何か……暖かいものでも作りたいな)
     部屋は暖かいが、外は寒い。寒さが苦手なこの場所の主が、白い息を吐きながら帰ってくるだろう。冷えた体が温まる何かを作りたい。
     ただ、今ある食材で何が作れるのか……中々思いつかなかった。
    「また、書庫でも覗こうかな」
     前の住人が残していった沢山の本が其処には眠っている。今日も何かしらのヒントをくれるかもしれない。
     よしっと言い立ち上がると、藤は書庫へと向かった。


              ❖     ❖     ❖


    「今度ここの大掃除をしたほうがいいかも……」
     本棚にみっしりと本が詰まり、僅かに黴の臭いが漂う部屋の真ん中で、藤は何か良い本がないか棚や本が積み重なる山を漁る。料理関連の本は手に取る事が多いので、目につきやすい場所に移動はさせていたが、前の住人の性格が出ているのか、分類ごとに整理されていない本が粗雑に詰め込まれていた。
     ふーっと息を吐いて座り込む。新しく料理を覚えたくて、まだ手に取っていない本はないかと余分な本を取り出しては戻しを繰り返しながら探してみたが、紙が纏まる本は木と等しく、細腕でそれをするには難だった。だが、この本の山から目当てのものを探すのは、何だか宝探しをしているみたいで好奇心が顔を覗かせてくる。
    「よし!」
     もう少し探してみようと立ち上がった時だった。
    「ん?」
     自分より少し高い位置にある棚に目が行く。背表紙に〝蛇〟という文字が書かれていた気がしたからだった。頁数は少ない為に薄く、本の上と棚の隙間に粗雑に突っ込まれているそれは、実際手に取ってみるとやはり蛇に関した本だった。
     そういえば自分は蛇の元に贄として来たのに、この神社の主に関して知っている事が少ない。試しにとその本を開いてみる。
     〝神様〟に関する事柄ではなく、単純に蛇について書かれている本だった。じっくり読むのは後にするとしてさらさらと目を通していると、生態についての項目で目が止まる。生息地や食事、体のつくりがどうなっているのかを図で丁寧に説明してくれている。そして次の頁を捲るが――
    「? なんだろう……」
     表れた図が理解出来なかった。
     今まで見た中では注連縄が近いかもしれない。だが、紙垂しでが描かれていなかった。藤の頭に疑問が浮かんでいたが、僅かな間ですぐに答えに辿りつくと思わず「あっ」と声を漏らす。
    「これ、二匹の蛇なんだ」
     でもなんでこんな状態に……。と、視線を文字へ動かした。
    「こう…び……」
     一瞬意味が飲み込めず、思考が停止する。だが書かれた文章や図から意味を理解するのにそう時間は掛からなかった。静かにぱたりと本を閉じる。そこから現れた顔は真っ赤に染まっていた。
    (そう、だよね……生き物だもんね……)
     そういう事に疎かった藤は、此処に来てからそれを知ったくらいだ。今まで〝その先〟があるなんて考えた事も無かった。

     この神社の神様は頃合いを見計らっては、ぽんぽんと膝を打って呼び、藤を〝食べる〟。藤が限界を迎え、自分でそれをする前に。
     自分ばかりがそうされているが、朽名はどうしているのか……そもそも神様は人と同じ様に……。と考えて藤は頭を振り、思考を取り払う。自分が書庫へと来た理由を手に持ち直した。


              ❖     ❖     ❖


     トントンと拍子よく材料を刻んでいく。野菜を沢山切って、深めの鍋に多めの水と小さく切った鶏肉と共に入れ、下地味を付けてから野菜の美味しさがしっかりと染み出るよう煮込んでいく。そして十分に火が通ったのを確認してから味を付けた。一つだけ、書かれていた調味料が無かったので試しに別の物で代用した事が不安だったが、無事に美味しく出来たのでほっと安堵する。
     するとガラガラッと戸を引く音が聞こえてきた。きっと藤の居る場所を見つけ、すぐに向かってくるだろう。
     火を消し、手に持っていた食器を置くと帰って来た蛇を出迎える為に戸へと向かった。

    「どう?」
    「ああ、美味しいぞ」
     その言葉を聞くと「良かった」と呟き、柔らかな笑みを浮かべる。その表情に朽名は目を細めた。
     本来自分は食事を必要としない。だが、興味本位で食べ始めた食事が、今では一日の楽しみとなっている。藤が此処に来なければきっと、試しに食べてみようとは思わなかっただろう。それに寒さが苦手な自分には、すぐに暖かい食事が出てくるのは有り難かった。
     また一つと口へ運ぶ。食べ進める中で向けられる視線にふと気づいた。
    「どうした?」
    「な、なんでもない」
    「?」
     ふいっと顔を背けられてしまう。
     訝し気ながらも気にせず食事を続けようとするが、箸に口をつけたままなぜか顔を赤くしている藤を視界からは逃さなかった。


     食事を終え、藤が「お風呂に入ってくる」と告げた時だった。座っていた朽名が何時もの様にぽんぽんと膝を打つ。それを見た藤が恐る恐るその上へちょこんと座った。与えられる感覚に備え、目を瞑りぎゅっと身構える。
     ……だが、依然として触れてこない。(あれ?)と片目を開けると、視界に映ったその手は上へと向かい額を抑えられた。
    「……朽名?」 
    「熱はないのか?」
    「え?」
     聞かれた意味が分からず聞き返してしまう。
    「食事の時に顔が赤かったからな。体調でも崩したのかと」
    「だ、大丈夫! 熱もないからっ」
    「そうか。何かあったら言うんだぞ」
     こくこくと藤が頷く。
     目の前に座って食事を摂る蛇の……食事を口に運び『食べる』その動作で書庫で見た本の図を思い出し、蛇に絡められる自分を想像した事を、そのせいで赤くなっていた顔を隠す為に急いで頷く。
    「……」
     疑問が解けて離すでもなく、何時もの様に〝食べる〟分けでもなく、和やかに蛇は藤の頭を撫で続ける。
    (うぅ……)
     ……心配してくれたのに誤魔化してしまった。頭を撫で続ける朽名に、僅かだった罪悪感が段々と肥大していく。
     居場所をくれて、沢山の事も教えてくれた。神様からしたらたった半年なのだろう。けれどその半年で、この神様が自分に優しさを与え続けてくれたのは知っている。気を保つ為、ぐっと唇を紡ぐ。そしてなけなしの勇気で言葉を押し出した。
    「心配、してくれたんでしょ?」
     何時の日だったか、お風呂でのぼせて倒れた時に怒っていると勘違いしてしまったけれど、本当は心配してくれたのだろう。今度は気づけて良かった。朽名へと向き直るとふわっとした笑みで言葉を渡す。
    「ありがとう」

     突然目の前に現れたふわりとした笑みに、言葉を受け取った蛇は固まり、手を止めては藤を見続ける。反して藤はその様子に気づいては居らず、言葉を続けた。
    「ごめん」
    「……ん?」
    「食事の時、ほんとは……」
     ぎゅっと身を屈め、抱えた膝に顏をうつ伏せる。
    「考えちゃったんだ……朽名に食べられる事。いつもみたいのじゃなくて……」
     食べられる〝その先〟を想像をしてしまった事。
    「っ…」
     それを口にしようとして言い淀んでしまった。
     どうやらやっと絞り出した勇気が尽きてしまったらしい。恥ずかしくて仕方がない。泣きそうになってくると、小さく「うぅっ」と吐き出した。
     耳まで赤くしている藤を見て、何かを察したのだろうか。小さく丸まる体を見ながら、無意識に朽名はごくりと喉を鳴らす。耳まで赤くしているその顔は、今どんな表情をしているのか……。

     そのまま静かに時間が流れる。
     言葉が返ってこない。何も反応がない時間に耐えきれず、取り敢えず膝の上から降る為、立ち上がろうとするが……がしりと朽名の腕に抑え込まれてしまった。捕らえている張本人の顔が、耐えきれないと言う様に伏せられて藤の首元へ寄る。
     軟な首筋に朽名の鼻先が触れ、堪えていたものと共にはぁっと吐かれた濡れた吐息が肌を撫でていくと、感触と温もりにぴくっと意図せず体が跳ねた。
    「く、朽名……?」
     くるりと藤の向きを変え、向かい合うよう膝に座らせる。案の定自分へと向くその顔は真っ赤に染まっていた。一つの提案を赤い耳へ届ける。
    「するか? その先を」
     今にも自分を食べ様とする視線に、心臓が跳ねていく。どくどくと鳴り続ける音は次々と速度を増していった。足の狭間がじんとする熱を感じて思わず膝を合わせる。
    「どうしようもなく、食べたくなったと言ったら……お前は怒るか?」
    「……怒らない。だって」
     食べられる為に自分は此処に居るんだから。


              ❖     ❖     ❖


    「あの時に〝味見〟だと言っただろう?」
    「っ! で、でもっ」
     抱えられ、寝具へと移された藤がふるふると身を震わせている。
    「こ、ここ使うの? 本当に……?」
     まさか本当に〝それ〟が出来るとは思っていなかった。自分は女性ではない。だからそれに似た何かをするのかと思ってはいたけれど……。
     背に枕を添え、脚を開かれ、下着まで脱がされた藤の秘部へ朽名が指を滑らせる。入口の縁をなぞるとそれに答える様に藤の体が跳ねた。
    「しっかりと解せばな。……望むなら、毎日それが欲しくなるぐらい気持ち良くさせてやれるぞ」
     艶を持った笑みと視線で藤を捕らえる。まるで睨まれた蛙の様に動けず、その表情が、言葉が、ぞわりと衝動を背に走らせた。藤が思い切り頭を横に振る。
    「い、いらないっ」
     反応が面白かったのか、ふっと朽名が笑う。
     そして潤滑をよくする為に、とろりと香油を絡ませた指が藤の中へと侵入してきた。
    「ひっ、ぅ」
     少しづつ。少しづつ。
     中へと指が埋まっていき、指先が内壁を擦る。刺激に耐えようと無意識に体へと力が込められている為に指が進めづらく、下を脱がされ隠すものも無く広げられた藤のものは、寂しそうに首を垂れていた。
    「藤……力を抜け」
    「んんっ」
     言われた通り力を抜こうとするが、接した指先の掠りは藤の体を強張らせる。
     見かねた朽名がそっと藤の顎へと手を掛け、親指で唇をなぞっていく。「んっ」と小さく声を漏らす藤を他所に、撫でながら口内へと指を入れると、そこに座る小さな舌を摘まんだ。
    「んぅっ」
     ぬゆぬると擦り動く指の間で舌が弄ばれていく。指先を奥へと一つ挿し入れられると、こそばゆい力加減で舌先までつっと撫でられた。震えた体の振動が内をなぞっている指にまで伝わる。
    「ん、んんっ」
     指先で舌の表面を撫でられる度に小さく体が震えてる。開いた藤の口から指をそっと抜き出すと、付着した液体をぺろりと舐めとった。
    「お前……感じ易いな。唇を合わせる度に感じ易くなっているのではないか?」
    「そんなことっ、んっ」
     返した言葉も、すかさず唇を奪った朽名に飲み込まれてしまった。間を割られ舌が侵入してくる。くちゅっと絡まる音が藤へと聞こえる様に、わざとらしく音を立てているから意地が悪い。引こうとする舌を逃さず捕らえていく。何度も口内を駆け巡り、漏れ出る吐息に甘さが混じり始めた頃だった。
    「ふぁっ! あっ、ン、だめ」
     ぐぐっと入り込もうとしていた指を、ずぷんと勢いよく挿れた……と思った時にはまた指先まで抜かれていた。
     再びちゅぷちゅぷと指を挿れていく。力が抜けたからなのか、唇に意識が向かい藤が油断したからなのか、当初よりもその口は侵入を許していく。
    「あぁ、っん……はぅ、ふっ…う、゛うぅ……」
     指が入りきると今度は緩く回し始める。内壁に存在を知らせる為、くるくると中の肉を撫でながら何かを探すよう軽く爪を立てると、〝味見〟よりも遥かに強く響く刺激が体を伝い、脳へと辿り着く。二本目の指が縁へと添えられている事にも気づかずに……。
    「あぁァ、…ひゃぅ、う、や、……ンっ動かさないで……ぁああっ」
     藤の意思に反して体は丁寧に感覚を拾っていく。そして中の、ある一点を朽名が探り当てた。
    「ぁっ――」
    「ここか」
     肩が震え、膝がガクンと揺れる。
     入口を少し開け、隙間から二本目を飲み込ませていく。また時間をかけてゆっくりと。入り込む感覚に、体が跳ねる上がる回数が増えていった。
    「うぅ…ふっ、ぅ……」
     ちゅるっと音が鳴る。どうやら無事に二本目も入る事が出来た様だ。
    「大丈夫か、藤」
    「ん、んん」
     どっちとつかない曖昧な返事が帰ってくる。連続的な初めての行為で、どうやら思考がぼやけ始めたらしい。軽く中を掻き回し、見つけ出したそこを刺激し続けるとかぼそく「あ、あっ」と声漏らした。
     惚け始めた藤へと顔を近づけ、触れるだけのキスを落とす。柔らかな感触が突然現れ、ちゅっと音をたてながら唇が離れた事で、藤は目の前の人物へ視線を移した。
    「慣らしているだけだが……きちんと感じてる様だな」
    「っ!」
     何時の間にか勃ち上がっていた藤の性器はとろとろと先走りを流し始め、指先で触れると嬉しそうに震えだす。そんな藤に、ふっと朽名が息を漏らしては柔い笑みを相手へ向けて呟いた。
    「可愛いな」
    「~っ、みないで……」
    「散々見せてきた後だろう」
     小さな額にかかる髪を掻き上げると、額へとまた唇を触れさせる。それでも後孔への動きは止まらなかった。
    「う……も、そこ、や…ゆび……ぬい、て」
     試しにくにっと二本の指で縁を広げると、「ぅっ」と藤が呻く。くぷっと広がったそこは、始めた頃よりも一段と中を覗かせた。だが、神様はそれを許しはしない。
    「いや……まだだな」
    「……え?」
     脳内が蕩けだした藤が言葉に遅れて返す。返した時にはもう次の指が挿し入れ始めていた。
    「あ、うそ、まって…だ…め……んっ、…ぁっ――」

     慣らす為、幾何かの時間が過ぎ、再び縁を広げられた頃にはくぱりと広がっていた。それでもこの少年が目の前の蛇を受け入れるには心許ない気もするが……。


              ❖     ❖     ❖


     そっと指を引き抜く。目の前の少年は、はぁはぁと息を荒立て潤んだ瞳で此方を見ていた。
    「気づいたか? 藤。お前の声、どんどん甘さを含んでいるぞ」
     その言葉を聞くや否や、恥ずかしくて声が出ないようパッと口を抑える。だが、その手は朽名に取られ、退けられてしまった。
    「素のままの姿が見たいんだ。楽な姿勢で、力を抜いて居てくれればいい」
     伝えられる言葉に、藤は赤い顔を俯かせる。
    (俺だって……もっと朽名のこと……)
    「朽名は……」
    「ん? どうした」
     ぼそりと小さく言葉を発している藤の、頬に張り付いていた髪をそっと払う。丸く黒い瞳はその動作を目で追い、一瞬言い淀むが、やがてゆっくりと口を開いた。
    「朽名は……蛇の姿じゃなくていいの? ほんとは……そっちが素の姿なんでしょ? 俺も……朽名のことをもっと知りたい……居たい姿で居てほしい」
     朦朧とする頭と、そこを慣らすだけでも一杯一杯だろうに、言葉を手渡した少年は柔い笑みも共に浮かべる。
     蛇は驚く自身の瞳に、向けられた表情かおを映した。
    「神頼みばかりしてくる〝人間〟に……まさか居たい姿で居て良いなんて言われるとは思わなかった。お前達人間は何時だって私に、神としての姿を望んで願いを押し付けるばかりだと思っていたよ」
    「……うん、いつだって人は自分の思ったものを欲しがるよ」
     ここへ来る前の藤もそんな人達を見てきたし、思い通りに動く事を強要されてきた。そして自分自身も何かを願い続け、目の前の神様から死を与えられる事を願った一人だ。
    「ああ、だから信仰の中で生まれた私は神として、お前が此処に来るよりずっと昔から人間達の願いを叶えてきた。正直、蛇の姿のまま生きて居た方が楽だっただろうな。……だけどな、藤。人に近い姿ではなく、蛇の欲をお前が受け止めるには……容易ではないと思うぞ」
    「――俺は大丈夫だよ」
     力もなく、特別頑丈でもない自分に応える事が出来るのか分からない。
     けれど応えたい。居場所をくれた朽名に居たい姿で居てほしい。素のままの朽名を知りたい。沢山の事を教えてくれた神様に何かを返したい。そして何よりも自分がそうしたい。
     目の前の神様を見返し、目を合わせると今出来る精一杯の笑みを見せる。
    「人のお願いをたくさん聞いてきた神様なんだから、贄に少しくらいわがままを言ったって……いいんじゃないかな?」
     柔らかな笑みを浮かべた藤が自分の瞳から消える事は無い。その笑みが自分の心臓を急かしている事くらいとっくに気づいていた。

     迷っているのかしばしの静寂が漂う。
     まるで静けさの中に溶けていってしまいそうで藤は不安になる。だが、気づくと朽名は藤よりも大きな蛇へと姿を変えていた。するりと藤へ近づく。
    「後悔しても、止まる事は出来ないからな」
     息つく様にふーっと空気を吐き出すと、白く長い胴を藤へと絡める。蛇のそこから出る膨らみが、自分に当たっている事に気がついた。
    (本当に……俺を食べたいんだ……)
     思わず息を飲み、意識をすると更に気恥ずかしさを感じる。顔を赤らめたまま口を開いた。
    「うん。大丈夫」

     あの本でちらりと知っていたから蛇のそれが二つある事は知っていた。だが、実際に目の当たりにすると書かれていたものよりもずっと質量を持つ。
     蛇独特の二本のうち、片側を藤の解された縁へと宛がう。ピタリと宛がわれた感覚が藤へと届き、ぴくりと体を震わすと僅かに声が漏れ出た。
     蛇の姿の方が余程理性を手放し易い。理性が削られ、荒く息を吐き始めた朽名が口を開く。
    「怖いか?」
    「怖くはないけど……」
     俯かせていた赤い顔を蛇へと向ける。
    「……恥ずかしくて。これからするんだと思うと、胸のとこ…なんだか、むずむずする……」
     潤んだ瞳で上目遣いにそう言われると、もう耐える事は出来なかった。飲み込ませようと力を込めていき、ぐぐっと中を進んでいく。
    「あっ、んんっ」
     入り込んでくる刺激で徐々に閉じられていた脚を、尾を巻き付けぐっと大きく広げられた。入口が広がり内壁がそれを擦っていく。
    「あっ――」
     ずっ…ずっ…と。太いそれが藤の中を押し広げながら少しづつ入り込む。時間をかけて解したが、蛇を受け入れるにはやはり藤の中はきつかった。ちゅぷり、じゅぷりと音を立てながら進んでいく。
    「ふっ、ぅ」
    「痛いか? 藤」
    「ん、ぅ…へ、いき……」
     痛がってはいないが、はぁはぁと荒く息を吐き続けている。このまま膠着していても藤の体力を奪うだけだと判断した蛇は、一気に自身を突き進めた。
    「゛ああぁっ――」
     中の滑りに任せてぱんっと勢いよく音を立て、全てを飲み込ませる。その衝撃に足が上下し、腰が揺れた。びくびくと身を揺らしながら藤が尋ねる。
    「は、ぁ、…ちゃんと、……んっ……は、いって…る?」
    「ああ。……大丈夫か? 藤」
    「ん」
     小休止も兼ね、中に形を覚えさせる為にぴたりと静止する。そうして荒い息の音だけが聞こえる静かな空間を崩したのは、藤の様子を見守っていた蛇の声だった。
    「動くぞ、藤」
     暴かれていた場所を逃がすなんてしなかった蛇が、入り込んだ自身でそこを狙う様にずぽずぽと緩い動きで抜き差をして刺激を始める。解す為に入れられた指よりも、遥かに質量のあるそれが藤の中を駆け抜けた。
    「あ、あっ――……ひうっ、う、ア…ん、ンんっ」
     ぬちゅ、ぬちゅっと音を立てては、じゅぽっと新しい音を生む。刺激を加える度に喘ぐ藤の声は艶を含み、それがまた己の中の理性を奪い取ってゆく。
    「はぁっ、あっ、あぁ、ふぅっ……んっ、――くち、なぁ……」
     挿入の速度が増したせいで、漏れ出てくる液に空気が混ざり、ぱちゅぱちゅと弾ける音が加わる。藤が息絶え絶えに名を呼んだ。
    「あ…ぅ…っ、くち……ここ、ほしい」
     手を伸ばし、蛇の顎へ触れ、あっと悶えながらも口を開ける。切望するとろんとした瞳が自分に絡み付いてきた。
     止まらぬ律動の中、蛇は自身の長い舌を開いた口へと入れ絡めていく。他所から見るとそれはまるで、大蛇が少年を食べているかの様だった。
    「んっ、ふ……んぅ、は、゛う」
     口の端からは飲み切れない液と共に吐息が漏れる。そして結合しているもう一つの口からも、吐き出された大量の先走りが漏れ出ていた。それでも止まない抽挿が、何度も藤の良い所を擦り上げ、与えられる快感が脳を蝕み体を揺らし続ける。
     情事の痕跡が空間に響き渡っていく中、「゛うっ、ぐっ」という音が混じり、甘い嬌声の中に嗚咽が混じり始めたのを蛇は聞き逃さなかった。小さな体で自分を受け止める少年の為、全ての理性を捨てる分けにはいかない。自分が今、藤を本気で食べてしまったらきっと――

     これ以上長引かせる分けにはいかないと終りを目指す。一気に駆け抜けてより強く、今以上に藤が快感を得る為に角度を付けて、一点を狙いながら中を攻めていく。
     途端、太いそれにきゅうっと吸い付きながら、中が閉まっていくのを藤は感じた。
    「――っ!!」
     藤の背が大きく弓なりに反れていく。
     飲み込んだ快楽の対価に、白濁とした液体を噴き上げ頂上へと到達する。
     その姿を見届けた蛇もまた、藤の中でびゅくっと水音を立てながら欲情を吐き出す。飲み込みきれなかった液は繋目から零れ、足先まで痙攣しながら快楽に沈められた藤は意識から手を放した。


     そっと自身を藤の中から抜き出す。
     その動きを感じたのか、意識を手放した藤が僅かに身を震わした。その場所からはとろりと情事の痕跡が流れ出していく。大きく胸を上下させて眠る藤の額へ、ぽすりと自身の鼻先を当てた。

     ここまで手を出す気は無かったんだがな……。


              ❖     ❖     ❖


     翌朝。
     すやすやと眠る少年の顔を堪能している時だった。昨夜のキスを強請る可愛い藤を思い出す。大人しく寝ているのをいい事に、蛇はその唇へと触れるだけのキスを落とした。
    「んっ……」
    「ん? 起きたのか?」
    「!?」
     すぐ近くにある顔を見て、藤は驚きで固まる。
    (普段なら恥ずかしがってすぐに顔を背けるだろうな)
     そんな反応を見ながらするりと蛇は身を人の姿へと変えた。
    「中々美味しかったぞ」
     何時もの様に、にっと笑みを浮かべ指先でつっと藤の唇をなぞりながら告げる。なぞられた事ですぐ近くに顔があった理由に行きついた。
    「っ!」
     どの事を言っているのだろうか……と、そんな事を思いながら真っ赤になった顔でわなわなと藤は震え出す。そんな様子を見ながら藤の肌蹴ている服に気づくと、にやっと朽名が悪巧みを浮かべた。
    「口が敏感になったなら、此処も何れはそうなるのではないか?」
    「え?」
     がぶっと藤の口に噛みつくと難なく舌を差し込み、中を弄る。
    「うぅ、んんっ」
     自身よりも小さな口を楽しんでいた舌はやがて藤の唇を離れ、ついでとばかりに首筋を辿り、肌蹴た服の隙間で見え隠れしていたピンク色の小さな頂きへ舌を這わせていく。
     新たに触れられたその場所を弄られ、意図せず体が反応した事で昨夜の情事が掘り起こされる。それも伴って恥ずかしさに耐えきれなくなった藤は、目の前に居る人物の顔を退け、枕の下へと自分の顔を隠してしまった。
     そんな藤を愛らしく感じ、くつくつと笑いだす。
    「まぁ、それはまたの楽しみにでも取っておくか」

     だが、自分の藤に対する変化にも気づいている。果たしてこの先、何処まで理性が持つのか……。何れもっと酷く抱き潰してしまう日が来てしまうかもしれない。
     藤へと吐き出された欲を洗い流す為、枕の下に赤い顔を隠している体を抱き上げて寝室を後にした。



    閑話1 「仕返し」

     一緒に暮らしているこの神様は、やはり蛇の姿でいる方が落ち着くらしい。
     家で寛ぐ時や眠る時……最近では肌に触れ、〝食べる〟時も蛇である方が多い。夜を思い返すと小恥ずかしいが、一つ相手の事が知れたのを藤は嬉しく感じる。
     そして蛇の特性を知ったのは贄として此処に来て共に暮らし、散々重ね合った後の事。掃除をしようと入った書庫でふと、以前見つけた本の存在を思い出したからだ。
    (蛇の性力が強いなんて……)


     目の前にいた大きな蛇が、胸の小さな突起をちろりと舐める。途端、「んっ」と藤が僅かに喉を鳴らした。
    「……朽名って……結構すけべだよね」
     頬を染めながら藤が口を開く。そう言われた当の本人は、藤にひっついていた体をむくりと起こした。
    「反応が愛らしくてな、つい構いたくなるんだよ」
     すっと人に姿を変えると、散々舐めていたそこを今度はきゅっと摘まむ。そこはすっかり日頃の戯れで敏感になり、朽名からの刺激を拾い上げるようになっていた。
    「っ! もう触っちゃだめっ!」
     羞恥心で顔を染め上げられた藤が嫌々をする。
    「まぁ、もう少し付き合え」
     この所、隙があれば体を重ね合わせていた。
     昨日も熱を吐き出してはなおそれが絶えなかったのを思い出し、このまま流されたら明日も起きれずに午前中は丸々潰れる事を知っている。
     そうなると最初から最後まで介抱され、朽名を留めてしまう上に自分も家事が出来なくなる。
    (せめて次の夜に……っ)
    「今日はだめだって」
     すでに羞恥心に浸され続けて赤く染まる藤が、押し返そうとぐっと力を入れるがびくともしない。
     そんなものは効かないと言う様に、するりと藤の片腕をとると指を絡ませ顔の横に添えた。そうして熟れ始めた小さな膨らみへの愛撫を再開する。
    「あっ、だめっ…っ」


     本を横目に顔の赤い藤が頭を抱える。
     あの時、『素のままで居て』と望んでしまって良かったものか。だが、結局の所、『人の姿をしていてもそう変わらないのでは?』と思い至り、藤は今後の自分へ応援の声を届けた。
     それにきっと、あの時それを望まなくとも、何れ自分は朽名に『素のままで居てほしい』と願い望んでいただろう。

     だって、朽名に触れたくてしょうがないのだから。


              ❖     ❖     ❖


     翌朝。
     ひんやりとした空気が漂う部屋の中、のたりとした感覚が残ったまま寝具の上でシーツに包まりむくれている藤と、愛おしそうに、けれども意地悪そうに笑う朽名が居た。

     藤との暮らしが楽しい。
     読めるようになった言葉も、共に食べる食事の腕前も、拗ねたり怒ったり泣いたり笑ったりとよく変わる表情、些細な変化も大きな変化も。そんな変化が愛おしくて堪らず、自身の生活の楽しみになっている。
    (この先どんな変化が見れるのだろうかと思うと、朝を迎えていくのが楽しみになるな)
     そんな事を思いながらシーツの上から頭を撫でると、むすっとしたまま此方を向かれた。そのままじっと見られる。
    「……? どうし――」
     言いかけた言葉が塞がれる。ぐっと体に力を入れ、唐突に起き上がった藤が自らの唇で朽名の唇を塞いでいた。
     藤が唇を離し、朽名を見るとふっと笑う。
    「いつもやられっぱなしだから仕返し」
     驚き、目を見開く朽名の顔を見て、「してやった!」と言わんばかりにべっと舌を出すとクスクスと笑う。
    「……」
    「朽名?」
     何も反応を返さない朽名に、段々と自分の行動が恥ずかしくなってくる。なんで何も返さないのかと口を開こうとした時、ガバッと勢いよく抱きしめられ、そのまま後ろに倒されてしまった。
    「く、朽名……?」
    「やられたらやり返さなくてはな」
     にっと満面の笑みで告げる蛇の表情で、体の芯の方へとぞくりとするものが走ると同時に、嫌な予感が藤の中に過る。
    「煽ったのはお前だからな、文句は聞かんぞ」
    「ちょ、ちょっと待って、あっ――」
    (しまった……)
     始まり続く愛撫と治まりを知らない朽名を見て、この蛇について学ぶべき所がまだあると、藤は心の中で思い直した。



    閑話2 「風邪」

     寒さが吹くある朝。
     空気は一段と冷えている。此処へ来てから初めて迎える冬だった。
     沢山の洗濯物を終え、黒髪の少年が室内へと戻る。ガラガラッと戸を引き、部屋へと入って来る藤に書き物をしていた蛇が目を向けると、藤の赤くなった手に気づいた。
    「指先まで赤くなってるじゃないか。貸してみろ」
     そう言いながら差し出す間もなく手を取って重ね、摩られながら温められる。以前はそこまで意識しなかったのに、こうして手を取られ、自分の手を相手の手と重ねる行為に薄く恥ずかしさを覚える。
     だが、段々と温まる手に何処かほっとした。
    「……今まで一人で凌いでたから……こんなに手があったかいなんて知らなかった」
    「……」
     重ねた手を引き、ぽすりと小さな身を受け止める。突然の出来事に目の前の少年は驚きの声を発した。
    「うわっ! 何!?」
    「蛇も寒さが苦手だからな。こうした方が暖かい」
    「今は蛇になってないじゃんっ」
    「まぁ、そう言うな。この方が暖かいだろう」
     静かな間が藤の頬を撫でる。胸の奥底がじんっと熱くなると、泣きそうな声でぽつりと呟いた。
    「あたたかい」


              ❖     ❖     ❖


     それから少し経ったとある日。
     さぁ、今日も一日をはじめよう。そうして自身の体温で暖かくなった寝具から立ち上がろうとしたそんな折、ふらっと体が傾くのに気づく。
     この場所に来てから初めて少年は風邪をひいた。

    「いいよ、風邪くらい自分で治すからっ」
    「目の前に治せる神が居るのに、使わない奴があるか」
     そう言い朽名は片手を前に出すと、
    「まぁ、目に見えずらいものに対しては得意分野ではないからな。多少体の性質が変わるかもしれんが……」
     冗談めかし手をわきわきとさせていた。
    「変わるって……」
    「夜が楽しくなるかもな」
    「なおさらいらないから!」
     ひょいっと藤が身を引き手から離れようとすると、反応を見ていた蛇が「冗談だ」と笑う。すると藤がくしゅっとくしゃみをした。
    「寒さが続いたからな。新しい場所に慣れて疲れも出たのだろう。暖かくしてゆっくり休め」
     布団に入る藤の上へ更に毛布を掛け、寝ている横へと水差しと湯呑を置く。
    「……暑いよ」
    「冷やさない様にな。だが、水は欠かさず飲むんだぞ」
    「うん」
     ずるっと藤が鼻をすする。風邪を引いて不甲斐ないとでも思っているのか、少し落ち込んでいる風にも見える藤に冗談めかしながら問いかけた。
    「添い寝でもしてやろうか?」
     向かい入れる仕草で両手を広げる。
    「……うつっちゃうよ」
     風邪で涙目になっている藤が、遠回しの断りも含めた言葉と視線を朽名へと渡す。
    「病に罹った事は無いな」
    「そう」
     何となくそう返すのではと予想していた。
     まるで関心が無いとでも言う様な素っ気ない返答をしてから、風邪で上がる自分の中の熱と共にふぅと息を吐き出すと、朽名を置いて布団へと潜る。
    「まぁ遠慮するな」
     そっけない藤の反応が物足りなかったのか、布団を捲り一緒に潜ろうとしていた。
    「ちょっとっ」
     藤の意に返さず共に横に着くと腕を回し、向かいあった姿勢でぴったりとくっついてくる。
    「ほら、このまま寝てしまえ」
     ぽんぽんと藤の背を叩く。熱が混じる中での対応も面倒だったので潔く諦める事にした。
     はぁと溜息を吐く。
    (……やっぱりあたたかい)

     そんな暖かさの中でうとうとと瞼が閉じかけた時だった。
     喉の奥からケホケホと咳がこみ上げてきてしまう。咳を吐き出し、口を覆っていた手で暫し胸を撫でて落ち着きを取り戻す。だが――
    「んぐっ」
     気を抜いた瞬間を突かれ、自分の口が相手の口で塞がれた。身を押し返そうと抵抗するが、そうする間も口の中が舌で遊ばれる。
     ようやく離された時には、藤からすっかり力が抜けていた。
    「はっ…ぁ、ぅ……」
    「これで少しはマシになるだろう」
     どうやら風邪を和らげる為にしたらしい……。熱を下げる為、病を治す為にした筈なのに、じんと別の熱が体から湧き始めた。
     羞恥心が藤を撫でるが、確かにさっきよりも体の怠さは薄れた気がする。だがふと、ある事が頭を過った。
    「……」
    「どうした」
     長く口を開かない藤に蛇は問う。躊躇いはあるが藤は口を開いた。
    「……他の人にもこうするの……?」
    「こうとは?」
     何に対して疑問を持ったかなんて分かっているくせに、にやにやと笑みを浮かべながら次に藤が口を開くのを待っている。意地悪く疑問で返してくる蛇に少しムッしながらも、未だ纏う羞恥が藤の顔を赤くさせる。
    「口を…合わせるの……」
    「いや、しないが」
     はっきりと告げる蛇に藤がまた赤くなる。
    「じゃあ、しなくてもいいじゃん!」
    「お前の反応が楽しくてついな」
     蛇がケラケラと笑う。
     自分とは違い、自らそんな事をするのは容易いと言いだしそうな余裕のある朽名の様子を見ていると、何だかまるで自分が揶揄われている気がしてくる。
    「意地悪しないでよ……」
     風邪で潤んだ目を向け、羞恥から顔が赤い藤が自分の胸元でしゅんとする。そんな表情を見ていたら、ずんと何かが自分の奥から湧き上がってきた。
    「……やはり、完全に治すか」
    「また、意地悪……」
     朽名の顔がゆっくりと近づいてくる。
     藤の頭を撫でると手を取り、小さな身を仰向ける。触れている手を指へと移し絡め組み敷いた。突然自分を覆った朽名の急な動作ですぐに状況が把握出来ない。
    「揶揄ってなどおらんぞ」
    「え?」
    「こんな事をするのはお前だけなんだがな」
     するりと服の下へと手を侵入させる。熱を持つその肌に触れるとぴくっと震えた。
    「そうだな……分からない事はしっかりと教えねばな」
    「さぁ、治すぞ」とにっこりと笑う顔が藤に襲いかかる。真っ赤な顔のままふるふると身を震わせながら、これから起こる事を藤の頭はしっかりと理解していった。




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