22時から恋愛実況。「しょっくーん！今日もお集まりいただきありがとう！　始まりましたドラドラちゃんねる！　本夜はシリーズ1作目からアナザーを名乗るもその後続編は出ず早4年！　アナザー･デトロイト神クロニシティをやっていきますよ！」

　……またよくわからないゲームしてんなぁ。
　ロナルドがお風呂上がりに髪を乾かしている最中、スマホに表示された通知をタップして開いた画面に映ったのはNutube。声の元は実況者ドラドラの“ドラドラちゃんねる”だ。ゲームの生配信中のようだった。

　チャンネル主はクソゲーレビュアーこと実況者ドラドラ。名の通りクソゲーと呼ばれるB級ばかりをプレイする男だが、煽りに対して理路整然とした物言いとスマートなプレイ、手馴れたゲームスキルの高さからコアなファンを呼び、動画を10年近くに渡り投稿してきたシャブシャブ動画からヌーチューブへ移行した今でもチャンネル登録者数35万人という知る人はそこそこ知るゲーマーである。

Ａの肖像（続き）　小部屋から出て先ほどブーケを食べた唇があったところへと向かう。しかしそこにあの唇は無く、扉が鎮座しているだけだった。扉の向こう側にもまた同じものがあるのではと身構えながらドアを開いたが、くぐり抜けた先にあったのは一面灰色の部屋だった。かなり広いその部屋は仕切りで先が見えない。しかし先ほど動き出して彼らを襲ってきた女の絵画と同じ物が幾つも並んでいる。
　さすがに襲われた時の光景が記憶に新しく近寄り難い。ふたりは壁からなるべく離れるように進んでいった。壁に仕切られた区画の一面には新たな絵画が飾られている。絵の前面には新聞紙がばら撒かれ、傍らに鼻にランプを下げたゾウの像が置かれている。
『ねぇ。そこ、どいてくださらない？』

2/21何度だって愛してる　ある日ののどかな昼時。食器をワゴンに積んでいたら、コーヒーを飲んでいたメフィスト様がパッと顔を上げた。
「愛してるゲームのリベンジがしたい」
「愛してますよ、メフィスト様」
「不意打ち！！」
　メフィスト様が口を尖らせて目を逸らした。弱すぎると思う。
　ランチョンマットを畳んで、カトラリーを回収する。メフィスト様のコーヒーカップを待とうかどうしようか。
　――と、メフィスト様が立ち上がり、机の上に上半身を押し倒された。
「愛してる」
「存じております」
　メフィスト様の胸ぐらを掴んで口付ける。離れた瞬間に「わたくしも愛しておりますよ」と、囁く。
「ズルいでしょ、それは」
　そう言ってメフィスト様はフラフラと壁にもたれかかった。